2012年2月13日月曜日

「数値に翻弄される社会」

2号機温度90度近くに 「温度計異常」と東電
 東京電力は13日、福島第1原発2号機の原子炉圧力容器底部の温度計が、同日午前5時に89・6度を示し、冷温停止状態の宣言以降の最高値を記録したと発表した。 12日午後2時15分ごろには、保安規定で定めた管理目標上限の80度を超えた82度を示し、経済産業省原子力安全・保安院に「運転上、必要な条件を満たしていない」と報告した。 東電は、一つの温度計の値が短時間で75~90度ほどの間で大きく変動していることや、この温度計以外は低い数値で安定していることから、この温度計に異常があるとみて調査する方針。(共同)

放射線の健康影響、市民認識と温度差--有識者会議の県民広聴会/栃木(毎日)
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「数値に翻弄される社会」
 
 私たちは数値に翻弄されている。
 福島第一2号機の格納容器内の温度の推移、放射性物質による汚染状況、「食の安全・安心」の「基準」等々をめぐって。
 「冷温停止状態」宣言なんて、最初の最初からすべてがデタラメであることを私たちが知っていて、さらにいわゆる「外部被ばく」や「内部被ばく」に、当然にも、とても神経質になっているからである。
 こういう「3・11以後」的状況が、たとえば、4週間後の福島の脱原発県民集会に東京からバスツアーを組むことに対し、「まさか子連れで参加しようなんていう方がいたら、私は絶叫するかもしれません。私には全くもって驚くべきツアー」と人に書かせてしまうのだろう。

 また、福島県伊達市の農業委員会の「耕作指導」に対し、「農民と、その農民が生産する農産物、更にはその農民が生産する農産物を体内に摂取する私たち日本国民のいのちを軽視する、ひどい話し」とまで書いてしまう人もいる。

 私たちは、このような主張を、このような表現になっていても、それが「正論」(の一面)を持っているだけに、やりすごしがちになる。 前者に関しては、すでに触れた。ここでは、「福島県有機農業ネットワーク」理事長の菅野正寿さんから聞いた話も紹介しながら、前回のつづきとして後者について少し考えてみたい。
 ポイントは二つある。一つは伊達市の農業委員会の「指導」を批判するにあたって、このような表現をする必要があるのかどうか/なぜこういう表現をしてしまうのか、もう一つは、「農地を再生」する方法として「鋤込み」をどう考えるか、という問題である。 

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 「数値に翻弄される社会」は、こういう形になって現れる。
・・<放射性物質>食品の新基準値案、認める答申 異例の意見書
 厚生労働省の諮問で食品中の放射性物質の新基準値案を審議していた文部科学省の「放射線審議会」(会長・丹羽太貫京都大名誉教授)は16日、新基準値案を批判する異例の意見書をつけつつ、同案を認める答申をした。意見書では、乳児用食品の1キロあたり50ベクレルを100ベクレルに緩めても健康は守られると記したものの、厳しい基準値を堅持する厚労省に歩み寄った。

 審議会は昨年12月27日から6回の審議を重ねた。毎回、大半の委員から「国際機関は日本と同じ年間1ミリシーベルトを根拠にしながら、一般食品のセシウムの基準値を1キロあたり1000ベクレルとしているのに、なぜ日本は100ベクレルなのか」「現行の暫定規制値で国民の健康は十分に守られており基準値の強化は福島の復興の妨げになる恐れがある」「乳児用食品や牛乳に50ベクレルを設ける根拠はない」など、新基準値案を批判する意見が続出した。
 しかし「厳しい新基準値でも農産物の流通が滞ることはない」との厚労省の意向は覆せず、「食品の放射性セシウムの濃度は十分に低く、(新基準値が)放射線防護の効果を高める手段にはなりにくい」との批判的な意見書を付けて結局は認めた。
 新基準値案は、一般食品100ベクレル▽乳児用食品50ベクレル▽牛乳50ベクレル▽飲料水10ベクレル4月から実施される。【毎日、小島正美】
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 下の「放射線審議会」の配布資料に目を通して、私はめまいがした。
 「健康」、「食の安全・安心」とは何だろう?

参考サイト
放射線審議会(第125回、2/2) 配付資料
議題
1.「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号)の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の一部を改正する件について(諮問)」に係る検討について
2.「水道法に規定する衛生上必要な措置等に関する水道水中の放射性物質の目標の設定について(諮問)」に係る検討について
●「実情無視の農地除染」(風のたよりーいわき市議会議員 佐藤かずよし)より

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福島原発原子炉圧力容器 温度上昇は温度計の不良...東電示す
 福島第一原発2号機の原子炉圧力容器の底部温度が80度以上に上昇し、東京電力は原子炉施設保安規定の「運転上の制限」を逸脱していることを発表した。12日17時の会見で説明した。圧力容器底部には、円形の容器の外周に沿って角度で0度、135度、270度の3か所に温度計が設置されている。温度上昇を示したのはそのうちの1つで、0度の場所に設置された温度計だ。2月1日23時の時点で52度だったが、2日頃から緩やかに上昇を始め、12日11時の時点で75.4度に達した。
 そのため東電は溶解した核燃料が連続して核分裂を起こす「再臨界」を防止する措置として、同日11時38分から約2時間半ほどホウ酸水の注入を実施。また、原子炉冷却のための注水量を全体で1時間当たり17.4立方mと、それまでの2倍に増加して冷却に努めたが、温度計が示す温度上昇は止まらなかった。
 
 第一原発の当直長は14時15分の時点で82度に達したと判断したが、17時現在でも上昇を続けている。ただ、東電の松本純一原子力・立地本部長代理は「全体的に冷却は順調に進んでおり、冷温停止状態は維持できている」と述べ、再臨界の可能性を否定した。
 松本氏はその理由として、格納容器内のガスサンプリングで得られた結果、核分裂で発生するキセノン135が再臨界判定基準(1Bq/cm3)を超えず、検出限界未満で未臨界であると判断できること。放射性セシウム134、137も検出限界未満であることを上げた。また、注水量の増加に伴って、圧力容器周りの他の温度計が示す温度は下がっていることや、温度上昇を示している温度計が示す温度を1秒ごとに取り出してみると、12日正午頃から振幅の幅が10度以上と非常に大きくなっていることなどから「計器の指示不良の可能性が、確信を持っていえるようになってきた」(松本氏)(???)と、話した。

 しかし、温度計が故障していると判断できるのは、他の温度計が示す温度との乖離がさらに広がり、上昇をし続けた場合だけだ。今後、注水量の増加に比例して、この温度計の温度が下がり始めた場合は、温度計の故障と断定がし難くなる。
 松本氏は「このまま温度がさらに上がり続けるなら他の温度計と比較して不良の可能性が高くなるが、逆に注水量に応じて温度が下がることのほうが判断に悩む」(→F**K YOU!)と、原因の断定には含みを持たせた。原子炉施設保安規定では、圧力容器の底部温度は80度以下に保たなければならないと定めている。実際に温度上昇が続く状態が続く場合、再臨界を起こす可能性もあり、政府が発表した原子炉の冷温停止状態が根本的に崩れる可能性がある。(レスポンス 中島みなみ)
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福島第1原発2号機原子炉温度上昇 野田首相、冷温停止状態に変わりはないと強調
 福島第1原発2号機の原子炉で温度上昇が続いている問題について、野田首相は、衆議院予算委員会で、冷温停止状態に変わりはないと強調した。 野田首相は「昨年(2011年)の12月16日に冷温停止状態に到達したことは、まさに、わたしの口から言明させていただきました。基本的には、その状況に変化はないというふうに思っていますし、しっかり留意していきたいと思います」と述べた。
 また細野原発担当相も、冷温停止状態との判断に変わりがないとしたうえで、「楽観論に立つのは戒める」と述べ、温度の上昇の原因を分析し、注水以外の方法も検討していることを明らかにした。(FNN)

2号機原発、温度計は故障=13日午後に「342度」―福島第1
 東京電力福島第1原発2号機の原子炉圧力容器底部にある一部の温度計が高い温度を計測した問題で、同社は13日、午後3時前に342.2度という異常な数値を示したと発表した。この温度計は電流の変化で温度を測定しており、同社は断線が原因による故障が考えられるとしている。(時事)
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 「数値に翻弄される」私がいて、あなたがいる。
 沖縄の仲井真知事は防衛官僚の失言という名のホンネに言及することを「口が汚れる」と述べたことがあるが、似たような気分だ。一言だけ。 
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 毎日新聞によれば、「冷温停止前倒し」に関し、東電の松本純一原子力・立地本部長代理は「上部からの注水で十分冷却できており問題ない」と説明したという。
 この発言に触れて、私は改めて「なぜ東電の技術屋は、自分たちが過去何度も判断を誤り、前言を翻し、「訂正」を繰り返し、そうすることで日本中を恐怖と不安に叩き込んできたことを顧みようとせず、かくも断定的に物が言えるのか?」と考え込んでしまったものだ。自分たちの判断はまた誤ってしまうかもしれない、慎重には慎重をきす、という姿勢が、どうしても感じられないのである。
 横柄とか傲慢という言葉では形容できない、何かが根本的に欠落しているとしか私には思えない、そんな人間の姿を垣間みてしまうのである。

 私たちは、「3・11」直後に東電経営陣が、事態の深刻さに怯え、「事態収束」作業から社として逃亡しようとしたことを忘れない。その報道に初めて接したときの、あの脱力感、怒りとかそういう感情を突き抜けたような徒労感を私は忘れない。 その直後だったか、「東電という企業を日本社会がなぜ生み出してしまったのか、私たちは真剣に総括する必要がある」といったような事を、このブログで書いた記憶がある。
 私個人に関して言えば、「3・11」のはるか前から東電という企業は「アウト!」だった。しかし「あの瞬間」において、それはもはや何物によっても変わりようがないものになった。
 「あぁ、この国は原発という「持ってはいけない物」「持てるはずがなかった物」を持ってしまったんだな、そしてまだ持ってしまっている・・・」という、「実感としての恐怖感」とでも言えばよいのか、そんな思いに襲われたのである。

 ここで私が言いたいのは、東電が何を言っても、また言ってることが仮に正しくとも、もう日本人の大半は東電という企業そのものを信用しなくなった、ということだ。東電が私たちをして、そうせしめてしまったのである。
 それと同じことが、国についても言える。そして、「3・11」直後から4月初旬ごろまでメディアを席巻した原子力ムラの面々に対しても言えるだろう。
 「原発の安全神話」とともに崩壊したのは、それを体現してきた者たちの人間性そのものに対する信頼性の崩壊なのだ。このことを現政権、東電、その他の電力企業、原子力ムラの面々は、どうも未だに理解しない/できないでいる、と思えてならないのである。

 一般の私たちの目線から言えば、ポスト「3・11」における原発の「安全性」の基準は、パソコンによって「解析」するような「工学的耐性」にあるのではない。原発というきわめて特殊な発電装置を管理・運営・経営・研究開発している者たちに対する人間性の信頼が、どこまで回復できるかにある。私自身はその可能性に対して、きわめて悲観的だ。
 このことは、「原発の工学的耐性と社会的耐性」をまた論じるときに再考したいと思うが、それが完全に崩壊したこと、地に落ちてしまったことを私たちは「これから原発をどうするか?」を考えるにあたり、認識の出発点に据える必要があるだろう。

 それは、「科学」的知見で解明したり、説得したりすることはできない。
 圧倒的多数の日本人が、もう感じ取ってしまったもの、そして信念化されてしまったようなものだ。
 それは、人間の集合的観念の問題である。それはもちろん、とても不合理であり、不条理なものだ。
 しかし、だからこそ決定的なものなのだ。
 「冷温停止」と「事故収束」を政治的に宣言することは自由である。
 だが、それをほとんどの日本人は信用しないだろうということ、少なくともこのことだけは理解できるようになってほしい。 私は、日本に多く存在するであろう、そう切に願う者の一人である。
⇒「政府・東電は、なぜ「冷温停止」を急ぐのか?」(2011/10/8)より
(一部の人々へ。「数値に翻弄される社会」と、2号機の温度上昇と並行して昂じた「黒木メイサバッシング」との関連、その親和性についての私見はこのページと切り離して論じることにしました。)

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2号機温度計「断線で故障」と報告=東電が保安院に―福島第1
 東京電力福島第1原発の2号機原子炉圧力容器底部に3カ所ある温度計のうち、一つの温度計が故障して一時400度超の異常値を示した問題で、東電は16日、経済産業省原子力安全・保安院に「温度計の電気ケーブルがほぼ断線したことが故障原因」と報告したと発表した。この温度計は依然200度台を示す一方、残り二つは30度程度で安定している。
 保安院が同報告を評価すれば、東電は現在通常の約2倍に増やしている2号機の注水量を減らす方針。
 報告書によると、東電は模型を使った実験で、温度計が海水や蒸気にさらされた状況を再現。実際の温度にかかわらず、測定値が激しく上下し、その後徐々に上昇する傾向がみられることなどから、温度計の電気ケーブルがほぼ断線状態にあると判断した。 (時事)
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 これはつまり、温度計の数値を根拠に「冷温停止状態」(100度以下?)の政治宣言を発したこと、その根拠が崩れた、ということの宣言ではないのか? 誰も、何もわからない。立証することも、反証することもできない。深刻だ。

東京湾の水・泥・生物、放射性物質を調査へ
 東京湾に流れ込む隅田川と荒川の河口付近で、環境省が17日から、川の水や川底の泥について放射性物質の濃度を調べることがわかった。
 文部科学省も4月以降、湾内の海水や海底の泥、生き物の調査を行う。「江戸前の魚を食べても大丈夫か」「子どもを水辺で遊ばせたいが不安」といった住民からの相談が増えていることもあり、実態把握に乗り出す。
 環境省が調べるのは、隅田川の両国橋と荒川の葛西橋付近で、3月末までに最初の調査結果を公表する。文科省は東京湾に流れ込む主な河川の河口周辺や沿岸、湾の中央部分で、表層部分の水や海底土を採取し、濃度を調べる。湾内の海洋生物についても地元自治体と協力して調べる方針。
 環境省などによると、福島第一原発事故で放出された放射性物質は風に乗って運ばれ、雨とともに関東平野に降下し、河川に入る。専門家は河川を通じて閉鎖性の高い同湾に入った放射性物質が海底で濃縮する可能性があると指摘している。(読売)