2012年3月9日金曜日

廃墟となったJAXA(宇宙航空研究開発機構)?――あるいは、「戦後官制」による「大学革命」がもたらしたもの

廃墟となったJAXA(宇宙航空研究開発機構)?――あるいは、「戦後官制」による「大学革命」がもたらしたもの


 『大学を解体せよ――人間の未来を奪われないために』を出版した後、何人かの大学関係者から、「大学なんて、もうとっくに解体されているよ。何を今さら・・・」といったような「批評」をいただいたことがある。そこには、「こちらは現場でたたかっているのに、背中から銃を向けるようなことをするな」といった苛立ちが込められていたかもしれない。「意地の悪いヤツだ」と。
 ある関係者とは、「論争」みたいなことにもなった。だが、どうしても、
①小泉政権時代の〈官製版〉大学解体に対して、さらに「大学を解体せよ」と私が言う根拠とその必要性、
②小泉「革命」路線の下での〈官製版〉大学解体が、「戦後官制」にとっての「大学革命」でもあったこと、
 この核心的な2点についての理解は得られなかったように思う。
 それはたぶん、私の責任である。「慙愧に堪えない、忸怩たる思い」がある。

「戦後官制」にとっての「大学革命」
 小泉「革命」路線の下での「大学革命」と言っても、小泉元首相が考案したのではない。この国には、いまだに「小泉ファン」が多くいるが、誤解は禁物だ。 「行政改革」という意味では、小泉「改革」は完敗した。その後の安倍・福田・麻生内閣も後退戦を強いられ敗北した。
 政権交代以降の民主党、野田政権に至っては「目もあてられない」状況だ。ほとんど、「レイプ(凌辱)」である。(→理由は、後で述べる。)
 ともあれ。「大学革命」の政策・企画立案は、すべて「橋本行革プラン」を「粉砕」し、「骨抜き」にした「戦後官制」によるものである。


 国立大学の(独立行政)法人化とは、その「戦後官制」の文字通りの延長組織としてあった既存の独立行政法人系の研究機関の再編・統合と一体のものとして推進された。
 重要なのは、「大学革命」の「主格」が、大学ではなく独法系研究機関であること、このことをしっかり理解することである。
 文部科学省・経済産業省・外務省官僚の「鉄のトライアングル」を中核とする「戦後官制」(財務省はその「大蔵」省)は、
①日本の大学院(博士課程)における「研究」と「教育」の統合、そしてその「実質化」を通じ、
②再編・統合した独法系研究機関への「循環型」人材供給機関として、
③旧帝大系を軸とした日本の大学院(博士課程)を「モジュール化」することに成功したのである。
 何のために? グローバル軍産学複合体に日本のそれをplug in(接続)するために。
 そのための「システム・デザイン」、それが小泉「大学革命」だったのである。

 今日、議員会館でJAXA For Peaceが呼びかけた「宇宙の軍事利用」とそのための「研究・開発」に反対する集会が開催された。それは、「宇宙研究のモラル」を問う人々による、この「大学革命」がもたらした必然的帰結に対するプロテスト、とも言うべき行動である。
 私も支持する。が、あまりに「遅きに失した」観が否めない。「軍事利用」に対して「平和利用」を対置するだけでは、もう止めようがないところにまでJAXA(宇宙航空研究開発機構)は来てしまった
 「宇宙研究のモラル」にとって、JAXAはすでに、廃墟と化している。異論のある人はいると思うが、私にはそう見える。だから廃墟に「 」はいらない。


 私は、「「宇宙基本法案」に反対するアピール」には、その周縁でコミットし、署名もした。小さな研究会(公開講座)も開き、自分なりに学習もした。しかし、今回は署名をまだしていない。自分の中で、どこか躊躇させるものがあるからだ。それはおそらく、自分の「立ち位置」に関係することなのだと思う。

 JAXA For Peaceの署名は、次の5点の内容を骨子としている。
1. 憲法の平和原則に抵触する
・宇宙開発戦略専門調査会の報告「宇宙空間の開発・利用の戦略的な推進体制について」(2012年1月13日)が、「JAXA法の平和目的規定を宇宙基本法と整合的なものとするべきである」としていることに関し、「本来、宇宙基本法のほうが上位法である日本国憲法と整合的なものでなければならない」こと。
 つまり、「JAXA法が宇宙基本法と整合的ではないという理由で平和目的規定を削除するのは、憲法の平和原則に矛盾する本末転倒」であること。

 これは、「日本には戦後憲法と並び、日米安保条約という名の「国のかたち」を決定する「憲法」が二つある」という立場ではなく、「日本の憲法はたった一つ、日本国憲法のみ」という立場に立つのであれば、原則的に「正しい」議論である。

2.宇宙の軍事利用のさらなる拡大につながる
①2008年5月に成立した宇宙基本法が、「第2条で宇宙開発利用を「日本国憲法の平和主義の理念にのっとり、行われるものとする」と規定する一方、第14条で「我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講じるものとする」と規定して、宇宙の軍事利用への道を開いてしまい、その結果、
②「日本は宇宙の軍事利用の道へと踏み出し」、「2009年に制定された宇宙基本計画では,自衛隊による偵察衛星の利用が国家戦略として位置づけられ」、さらに「経団連などの財界は、宇宙を軍事・商業目的のために積極的に活用する要求を強めて」いることなどから言って、
③今回のJAXA法の改定が、「宇宙基本法で危惧された宇宙の軍事利用の拡大のさらなる具体化」であること。

 補足は必要だが、これも正しい。

3. 科学の公開性・民主性の原則が侵される
①「JAXAで軍事研究が行われるようになると、「安全保障」を理由に研究成果の公開や、研究の交流や、自由な議論が妨げられる恐れが生じ」ること。
 「日本の情報収集衛星は、大規模災害・・・の被災地上空からの写真撮影を行ってい」るが、「撮影画像は「必要に応じ、関係省庁にその結果を配布・伝達した」とされているものの、「秘密について保全措置を講じる者以外には非公開」を理由に公開されてい」ない。

② さらに、第180回通常国会に、いわゆる「秘密保全法」も提出されること。
 「公務員のみならず、大学などの研究施設や民間企業で働く従業員にも懲役10年の刑罰を科する秘密保全法の目的は、軍事機密を守ること」にある。そうなれば、「軍事に関わる研究はますます公開が妨げられ、国民が必要とする情報はますます入らなくな」る。

③野田政権は、「宇宙開発戦略専門調査会の報告に基づき、文部科学省宇宙開発委員会を廃止し、JAXAの所管を文部科学省と内閣府の共管に改正し、関係省庁(防衛省・経産省なども含む)が一体となって宇宙開発を進めるよう体制を整備する」としている。

・「情報保全隊を使って国民を監視してきた防衛省や、「やらせシンポジウム」を行い原発の安全神話を振りまいてきた経産省などが何を秘密にしてきたかを考えれば、JAXA法改定と秘密保全法制定によって何が起こるかを想像することは難く」ない。そうなれば、
・「宇宙開発の分野に国民の目が届きにくくなり,重大な税金の無駄遣いや政官学の癒着の温床となります。これでは、宇宙開発の利益共同体(第2の「原子力ムラ」)が形成されることも大いに懸念」される。

4.研究の自由の侵害につながる
①「JAXAで働く科学者・技術者が業務命令で軍事研究に従事させられる恐れ」があること。
・「これまで軍事とは無縁であったからこそ、「はやぶさ」の快挙に見られるような、自由な発想で挑戦し世界的に優れた成果をあげてきた科学者・技術者を軍事に動員することは、研究の自由や思想・良心の自由を侵害することとなり、日本の宇宙開発研究にとってむしろ障害となるに違い」ない。

5. 一部の人たちの議論だけですすめられており,当事者であるJAXAの研究者・技術者,および国民の声が反映されていない
①JAXA法改定のブレーン、「宇宙開発戦略専門調査会は大学の学長・教授,民間企業経営者など14人で構成」されているが、「JAXAの関係者は上杉邦憲氏(JAXA名誉教授)と向井千秋氏(宇宙飛行士・JAXA特任参与)のみ」。
 すなわち、「JAXAの科学者・技術者を排除し、宇宙開発利用に利害関係を有する人たちだけ」。
②「報告が提出された直後に、当事者であるJAXAの研究者・技術者や国民の議論を経ずにJAXA法に重大な改定を加えることは、極めて拙速」。

 すべて原則的に正しい。正論だと思う。署名する意思はあるし、それ自体は簡単なことだ。
 しかし。まず「JAXAの研究者・技術者」の「意思」がわからない。JAXA自身が、機構としてのこの問題に関する声明なり見解なりを表明する(表明するよう要求する)のが先決なのではないだろうか。もう少し、考えてみたい。


 上にある、野田政権が、「文部科学省宇宙開発委員会」を廃止し、JAXAの「所管」を文部科学省と内閣府の「共管」に改正し、関係省庁(防衛省・経産省なども含む)が一体となって宇宙開発を進めるよう体制を整備」したという表現に注目したい。一見、回り道と思えるかもしれない、しかし事の本質を捉えるためには近道になるであろうこの問題から考えてみよう。ここでのキーワードは「共管」。そしてその主格は内閣府である。

 小泉「革命」以降、内閣府は「焼け太り」症候群の病に冒されてきた。もう、手も足も「パンパン」である。 なぜ、こうなってしまったのか?
 「中央省庁の改革」路線の敗北の結果、新たに設置された内閣府が、小泉政権以降のこの10年余りの間に、「自己革新」を通じた「自己増殖」をくり返してきたからである。 それはまるで、大日本帝国を支え、統治した戦前の官制の幹細胞が、「再生医療」によって霞が関に移植され、戦前の官制が蘇生したかのような勢いである。

 だから、いま、私たちが見ている霞が関は、たとえば『官僚たちの夏』が描くような、「古き良き時代」のかすかな名残があった、「あの頃」の霞が関ではない。「ニュータイプの、アンドロイドのような霞が関」である。

 要するに、「人間性」(humanity)とか「人文」(humanity)とかが通用しない/通じない、グローバル軍産学複合体に操作される「マシーン」(機構/装置)のような霞が関である。 これは、とても危険だ。ルネッサンス以降の「近代的理性」や「人間のモラル」を鼻で嗤うような「マシーン」なのだから。
 それは個々の官僚の人間性や人格とは無関係の、「システムとしての霞が関」の問題である。 いまだ初期の兆候であれ、まるで『時計じかけのオレンジ』や『博士の異常な愛情-- または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』に憑依されてしまったかのような世界。「平和利用」とか、そういうレベルの問題ではないのではないか? 霞が関の隠喩として、そう語っているのではない。ただ現実を描写しているだけである。


 「宇宙戦略室」
 いま、内閣府の総「職員」が、どれくらいいるか、ご存知だろうか? 「官邸」の「職員」数を含めると、3000人を超えている。
 内閣府は、いまや文部科学省(2400人前後?)を超える、それ自体が日本の官僚機構から自律化し、「官僚機構内の官僚機構」として、「省庁縦割り」行政の政策の「統合・調整」マシーン=各省庁の「司令塔」としての機能と役割を担っているのである。 

 自公政権時代に、この内閣府に新たな官僚機構を設置することが既定の方針として確定する。その一つが、この4月に環境省の「外局」として設置される「原子力規制庁」とともに内閣府に設置される予定の「宇宙戦略室」である。

 「宇宙戦略室」は、「宇宙開発・利用に関する国家政策を一元的に所管し、宇宙政策の企画・立案、安全保障政策、各省庁にまたがる政策の調整権限」を持つものとされ、今通常国会への設置法提出がなされている。さ決まっている。これと同時に、「有識者」による「宇宙政策委員会」も内閣府に設置されることになっている。

 一方で、「公務員制度改革」⇒「天下り根絶」を、内閣府の「焼け太り」によって回避しながら、その内閣府を「各省庁にまたがる政策の調整権限」を持つ「司令塔」とし、霞が関そのもの再編を行う・・・。
 こうしてできあがったのが、「ニュータイプの、アンドロイドのような霞が関」「グローバル軍産学複合体に操作される「マシーン」(機構/装置)のような霞が関」である。
 東大全共闘にコキ下ろされ、精神に失調をきたした丸山真男の後を継ぎ、東大法学部長になった辻清明がいみじくも60年前に語ったように、霞が関は「まことに、強靭な粘着力の所有者」だと言うほかはない。

 〈問題〉は、JAXAの研究者・技術者である。どのような未来を、世界と日本にもたらそうとするのか、一研究者・技術者として熟慮し、「JAXA法改正」問題に対する自分の「立ち位置」を考えてほしい。
 「機構」がどうであろうと、最終的にはそれぞれの研究者・技術者の「主体性と責任」がモノを言うはずだ。 少なくとも、いまはまだ、そこに希望(if any)を託したい。それが先決だと思う。

【参考サイト】
●「宇宙開発特別委員会 中間報告」(主題:新たな宇宙開発利用制度の構築に向けて -副題:平和国家日本としての宇宙政策/2006年4月 自由民主党政務調査会 宇宙開発特別委員会)

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<NATO事務総長>災害即応力の強化目指す 
 北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長は東日本大震災から1年を前に毎日新聞との単独インタビューに応じた。世界各地の脅威に速やかに対応する「NATO即応部隊」の訓練強化を通じて、災害への対応能力を高める意向を明らかにした。即応部隊の訓練強化はNATOが取り組む機構改革の一環。 インタビューはブリュッセルで5日に行われた。

 事務総長は東日本大震災の被災者に「深く共感」し、日本人の「不屈の精神を称賛している」と述べ、「日本人の力なら災害から立ち直れるはずだ」とエールを送った。 NATOの災害対応では05年のパキスタン地震や米ハリケーン・カトリーナで即応部隊が救援物資の輸送などにあたったケースを成功例に挙げた。物資輸送や食糧確保などの後方支援機能が役立つことから、「24時間対応できる仕組みと能力を災害対応で使うのは当然だ」と述べた。 また、災害対応を通じて「救援を待つ人のために軍備が平和目的に使えるということが多くの人に理解される。信頼の醸成になる」と指摘、NATOに対する各国民の理解促進という副次効果がある点も強調した。

 金融・債務危機の影響でNATO加盟国の財政事情は厳しく、NATOは無人偵察機の共同購入など装備を共有化する「スマート防衛」構想に取り組んでいる。軍備などハード面の共有化を進めるには兵士の交流や教育・技術の共通化などソフト面の対応も欠かせない。 事務総長は機構改革には「兵力の(ソフト面での)融合を進めることが必要だ」と述べ、災害対応に実績のあるNATO即応部隊において「各国が訓練を強化することで、どう協力していくかを学ぶことができる」と指摘した。
 一方、事務総長はアフガニスタンからNATO部隊が撤退する14年末以降も、アフガン国軍を支えるため「日本の貢献が続くことを期待している」と述べた。7月に東京で開かれるアフガン支援閣僚級会合には「NATO代表が出席することになるだろう」との見通しを示した。 また、国防費を拡大している中国との「定期的交流が必要」と指摘。「中国と対話の枠組みを持つことは利益であり、強く希望する」と述べ、対話の枠組み作りに意欲を示した。 【毎日、ブリュッセル斎藤義彦】

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⇒「惨事と軍隊(Disaster Militarism)

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