2012年7月27日金曜日

「いじめ」と修復的正義

「いじめ」と修復的正義


 行政や学校が行う「いじめ対策」とは、学校の中で、子どもが教師と一緒になって「問題を起こさない学校」にすることである。
 「問題児」が「事件」を起こす前に、子どもに告発/摘発させるような制度や仕組みのことを言う。
 それがまったく機能していないことが、今回の「事件」によって改めて明らかになった。ほんの一例に過ぎないが、横浜市のケースを学習しておこう。2年前の「いじめ見逃さない、状況把握へ全市立学校で個人調査開始/横浜市教委」他の記事を参照してほしい。「いじめ対策」は破産し、この間、「いじめ」も子どもの暴力も不登校も、すべて増加してきたことが理解できるだろう。まさに「学校全体がいじめ状態」なのだ。

 「いじめ対策」が機能せず、破綻する最大の理由は、子どもが学校や教師や親を(まったく)信用/信頼していないところにある。 自分がどうだったか、みんな思い出してみてはどうだろう。
 「おとな」になると、人間は自分に都合の悪いことを、自分に都合の良いように忘れてしまう、忘れた振りをするというのは、実に困ったものだ。「私たち」は、そういう「おとなの世界」を心の底から軽蔑していたのではなかったか。君にしても、あなたにしても。

 子どもの世界の「いじめ」は、子どもの世界の中で、子ども自身が解決する力を身につけなければ、永遠になくならない。
 無くなりようが、無い。年齢(学年)を変え、名前を変え、場所を変え、形を変えて、くり返されるだけである。
 また、「いじめ」に対する応報的正義観に基づく懲罰・厳罰主義的アプローチは、「いじめ」を解決しない。
 ただ、おとなの眼に、見えなくさせるだけである。子どもの精神世界を、これまで以上に病んだものにするだけである。
 「何もわかっていないおとな」が、勝手に安心するだけである。

 子どもの世界の「いじめ」を、すこしでもなくすために、おとなの世界にできることは、子どもの世界が「いじめ」を解決する「力」を身につけられるよう、その模範/規範を示すことにある。
 少なくとも、邪魔をしないこと。
 子どもの世界から見た場合に、権威や権力をかさに、不当で過剰な「外部からの介入」をしないこと。
 
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在校生の聴取開始 大津中2自殺で滋賀県警(京都新聞)
・滋賀県警は26日午前、亡くなった生徒が通っていた中学校の在校生を対象とする本格的な事情聴取を開始
・男子生徒と同学年だった3年生約300人を中心に、卒業生や2年生にも対象を広げ、話を聞く
・すでに男子生徒の当時の担任などの聴取を行っている。8月末までに生徒への聴取を終え、いじめをしていたとされる同級生3人の立件の可否を判断
・男子生徒の父親(47)は18日、暴行や窃盗、恐喝など六つの容疑で大津署に告訴し、同署が受理
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(つづく)


「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「原発災害と「修復的正義」(restorative justice)」(2011,12/20)
⇒「「学校に行かなくてもいい社会」のために」(2012,7/15)
⇒「「いじめ」について」(7/18)

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文科省、いじめ問題に新組織 来月初旬にも発足
 大津市で昨年10月、中学2年の男子生徒が自殺し、いじめとの関連が指摘されている問題を受け、平野博文文部科学相は24日の記者会見で、文科省内に設けるいじめ問題の支援チームについて、大臣直轄組織とし、早ければ8月初旬にも設置する方針を示した。
 平野氏は、支援チームについて、いじめが分かった際に学校や教育委員会を支援して原因究明や保護者への対応を図るほか、再発防止策づくりなどにも関与すると説明。 「態勢や人選を官房長の下で検討している。迅速に対応するため、平常から学校や教育委員会など現場との日々の連携が重要になる」と述べた。
 また、8月中に各教委を通じて報告を求めるいじめの実態を把握する小中高向けの緊急調査は公立に加え、私学も対象に含めることも明らかにした。(京都新聞)
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 行政論的に言えば、「いじめ」問題を通じた文部科学省による「地方」の教育行政に対する管理・統制・介入の強化は、「教育の地方主権」を阻害し、分権促進の流れに逆行するという意味で、「反動的」である。
 滋賀県および大津市は、率先して中央の介入を招き入れているが、むしろそのことが、この「事件」の顛末の悲劇=喜劇性を表現している、と言うこともできる。

 大津市(教育委員会)および問題となっている中学校の、あまりにひどい「事なかれ主義」「ご都合主義」と隠ぺい体質、文科省にしか顔を向けていないそのあり方、「自治」を自ら放棄した「親方日の丸」のそのテイタラクさ、要するに「自己統治力」の無さが、霞が関や警察権力による現場への介入強化がはらむ問題性をみえなくさせているのである。

【参考資料】
片山さつき(自民党・参議院議員)氏の見解
「・・・成人の凶暴者、殺人鬼がいるように、少年にもそれはいて、中学の年代は、体は大きくなっても心の抑制はきかないですから、かえって危険。
  少年法、この件をもって廃止しろとまでは言いませんが、前回の改正だけでは抑止力にはなっていないのではないか、と言う点から再検討が必要ではないでしょうか。
 教育委員会についても、確かに滋賀は、大津は特に、という話もありますが、そういう個別的な体質問題ですむことなのか、、。
 それから、滋賀から京都に転校してしまうと、滋賀の教育委員会は手が出せない、と責任放棄できてしまう問題、個人情報保護法の壁、、。」