2015年6月16日火曜日

国立大学よ、どこに行く? 2015

  国立大学よ、どこに行く? 2015


・国立大学協会 総会で国の方針に懸念相次ぐ
すべての国立大学が参加する「国立大学協会」の総会が開かれ、入試改革や、人文社会科学系の学部の廃止を含めた組織再編など文部科学省の方針に懸念の声が相次ぎました。
15日、東京・千代田区で開かれた総会には全国86の国立大学のうち、83校の学長が出席しました。

学長からは最近の文部科学省の方針に懸念の声が相次ぎ、大学入試センター試験を廃止して新たなテストを導入する入試改革について、「方法論が先行して文部科学省自体に将来像がなく改革の目標が見えない」という意見が出ていました。
また、「地域や産業界のニーズに合わせた人材育成が求められている」として、教員養成系や人文社会科学系の廃止や転換を含めた組織再編を求める方針に対しては、「大学教育は職業に直結させるものではなく知のレベルを高めることが目的だ」という批判の声が上がりました。

国立大学協会の会長に再任された東北大学の里見進学長は、「人文社会科学系を廃止する流れは少し問題があると思っている。『社会の役に立つ』人材育成の議論が近視眼的で短期の成果を挙げることに性急になりすぎていると危惧する。今すぐ役に立たなくても将来的に大きく展開できる人材育成も必要だ」と述べました。

また、下村文部科学大臣が国立大学の入学式などでの国旗と国歌の取り扱いについて適切な対応を取るよう求める考えを示していることに関しては「大学では表現や思想の自由は最も大切にすべきもので、それぞれの信条にのっとって各大学が対応すると思う。萎縮しないよう頑張っていきたい」と話しました。(NHK

・国立大学に国旗・国歌の実施要請 文科相が学長会議で
 下村博文文部科学相は16日、国立大学長に対し、入学式や卒業式で国旗掲揚と国歌斉唱を実施するよう要請した。東京都内で開かれた国立大学長会議で「国旗と国歌の取り扱いについて、適切にご判断いただきたい」と述べた。

 下村氏は「各国立大の自主的な判断に委ねられている」としたが、法的な根拠がない中での要請は異例。憲法が保障する「学問の自由」やそれに付随する「大学の自治」を侵害するのではないかとの批判が出そうだ。
 会議後の学長たちからは「あくまで大学が決めること」など、冷静な反応が目立った。

・・・
・国立大:教員養成など見直しを 下村文科相が通知
 下村博文文部科学相は8日、全国の国立大に対し、次の中期目標を策定する際、教員養成系と人文社会科学系の学部・大学院のほか、司法試験合格率が低い法科大学院について、廃止や見直しに取り組むよう通知した。
 文科省は背景に少子化や人材需要の変化などを挙げ、「地域のニーズを踏まえて、各大学の目標に沿った見直しをしてほしい」としている。 中期目標は各国立大の運営指針で、次に策定するのは第3期に当たる2016〜21年度の6カ年分となる。
 文科省は以前から、各国立大に対して自分たちの特色を明確にするよう求めていたが、あらためて特色を踏まえた組織改革を要請し、積極的に取り組む国立大に運営費交付金を重点配分すると通知した。

 教員養成系と人文社会科学系については「組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努める」とし、司法試験合格率が低かったり、定員割れが続いたりしている法科大学院も「組織の廃止や連合も含め、抜本的な見直し」を求めた。
 教員養成系改編の動きは既に一部で出ており、高知大は今年4月、教育学部の一部課程を廃止する一方、地域の課題を解決する人材を育成する地域協働学部を新設している。
 通知では研究での不正行為や研究費の不正使用にも言及し、倫理教育の強化や組織の管理責任体制の整備を求めた。(共同)


【参考資料 1】
⇒「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について(審議まとめ)
(第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会)


⇒豊橋技術科学大学・大西学長メッセージ 『運営費交付金をめぐる議論』  2014年11月21日

国から国立大学に交付されている運営費交付金をめぐる厳しい議論が始まっています。
国全体で、およそ1.1兆円規模(平成26年度)の国立大学法人運営費交付金から、基幹的人件費を除く分に効率化係数(第1期)・大学改革促進係数(第2期)を乗じて算出された額が毎年削減されていることは周知の通りです。

このまま行けば多くの国立大学は人件費も事欠くようになることは自明です。
しかし、国も、国立大学協会も、さらに国立大学法人自らも、大学の将来展望について積極的に示してきたとはいえません

こうした中で、運営費交付金の在り方について、内閣においては日本経済再生本部・産業競争力会議、財務省においては財政制度審議会で、大学改革の柱の一つとして議論がなされ、文部科学省においては国立大学改革プラン等を踏まえ、国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会を、また、国立大学協会においては、課題検討WGを設置し、検討が行われています。
国立大学サイドの取組みがやや遅れていることもあって、議論は国立大学に対する外部からの問題提起という様相を呈していることは否めません。

現在の議論の枠組みは、世界最高水準の教育研究の展開拠点、全国的な教育研究の拠点、地域活性化の中核的拠点(文科省が2013年11月の国立大学改革プランで示した国立大学機能強化の方向性)といった大学の役割に即して、大学を評価し、運営費交付金のメリハリをつけた配分を行い、大学の合理化や再編強化を促そうというものです。

整理すれば、論点は、国立大学法人に対する運営費交付金をどれほどの規模とするのかという総額に関わる点と、評価を踏まえてどのように配分するのかという問題の二つに分かれます。
評価の低いところへの配分を削減することによって、総額は減らしつつも、配分額を増加させたり、そう減らさない大学をつくることもあり得るので、この二つの論点は密接に絡みます。

いうまでもなく、総額が増えて、我が大学への配分も増えるというのが理想には違いありません。
しかし、我が国では、現在約120万人の18歳人口が、2031年には100万人を切り、2060年には、60万人そこそこまで減少していく傾向を辿っているのですから、多数の国民に上記の理想を求め、大学への国費投入額の量的確保を支持してもらうのは容易ではありません。

一方で、国立大学として重視するべき機能や、その評価のあり方をめぐっては、侃侃諤諤の議論が起こることは必至で、決着をつけることは簡単ではありません。技術立国、科学立国を標榜する日本にあって、技術科学の探求という本学のミッションは支持を得やすいものと思っていますが、それだけに、ますます競争が激しくなる分野といえます。いずれにしても、2016年度からの第3期中期目標期間を前にして、国立大学をめぐる議論は大きな節目を迎えています。

本学としては、地域及び日本、あるいは国際社会への人材教育、世界に通ずる技術科学の研究、さらに国際的な人材育成に一層鋭く挑み、大きな成果を上げることを改めて決意する必要がありそうです。(学長室だより 第71号より)


【参考資料 2】

内閣府
【閣議決定】科学技術イノベーション総合戦略2015
【本文】(PDF形式:549KB)
【概要】(PDF方式:373KB)

首相官邸
日本経済再生本部産業競争力会議
イノベーションの観点からの大学改革の基本的な考え方

回数 開催日 会議関係資料
第1回 平成26年10月21日   議事次第   配布資料   議事要旨
第2回 平成26年11月14日   議事次第   配布資料   議事要旨
第3回 平成26年11月19日   議事次第   配布資料   議事要旨
第4回 平成26年12月17日   議事次第   配布資料   議事要旨
第5回 平成27年 2月16日   議事次第   配布資料   議事要旨
第6回 平成27年 4月9日   議事次第   配布資料   議事要旨
第7回 平成27年 4月20日   議事次第   配布資料   議事要旨
第8回 平成27年 4月28日   議事次第   配布資料   議事要旨
第9回 平成27年 5月21日   議事次第   配布資料   議事要旨


文部科学省
国立大学改革について
国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)
国立大学法人等の平成25事業年度決算等について
各国立大学の中期目標・中期計画(平成27年3月)

・「大学改革実行プラン
「大学改革実行プラン」は、2つの大きな柱と、8つの基本的な方向性から構成されています。
1つ目の柱が、「激しく変化する社会における大学の機能の再構築」であり、
1. 大学教育の質的転換、大学入試改革
2. グローバル化に対応した人材育成
3. 地域再生の核となる大学づくり(COC (Center of Community)構想の推進)
4. 研究力強化(世界的な研究成果とイノベーションの創出) を内容としています。

2つ目の柱が、そのための「大学のガバナンスの充実・強化」であり、
5. 国立大学改革
6. 大学改革を促すシステム・基盤整備
7. 財政基盤の確立とメリハリある資金配分の実施【私学助成の改善・充実~私立大学の質の促進・向上を目指して~】
8. 大学の質保証の徹底推進【私立大学の質保証の徹底推進と確立(教学・経営の両面から)】 を内容としています。

「大学改革実行プラン」は、あるべき論を示すのではなく、24年度直ちに実行することを明らかにし、今年と次期教育振興基本計画期間を大学改革実行期間と位置付け、計画的に取り組むことを目指します。大学改革実行期間を3つに区分し、PDCAサイクルを展開します。
・ 平成24年度は、「改革始動期」として、国民的議論・先行的着手、必要な制度・仕組みの検討
・ 平成25、26年度は、「改革集中実行期」として、改革実行のための制度・仕組みの整備、支援措置の実施
・ 平成27年度~29年度は、取組の評価・検証、改革の深化発展
を実施し、改革の更なる深化発展を行います。

再掲
世界の学生運動、日本の大学の今 2010年12月2日

 公教育と大学の「民営化」に抵抗する学生運動が2008年以降、世界的な高揚をみせている。
 右の写真は、大学における歴史教育と社会科学系カリキュラムの廃止に反対するチリの学生運動。
⇒International Student Movement
⇒学費値上げに反対するフィリピンの学生運動(24oras: Students storm Senate over SUC budget cuts/GMAnews)
⇒ブラジルの学生運動(Congresso da ANEL)

 一方、この11月、二派に及ぶ全国街頭行動を展開したイギリスの学生運動は、12月4,5日の週末から、さらにクリスマスに向けた行動を計画している。
 写真はオックスフォード大学のラッドクリフ・カメラ図書館を占拠した学生たち。
⇒Oxford Free School 30.11.10
⇒Action map for Saturday 4th December
⇒Student Protest Against Education Cuts Manchester 30-11-2010 Compilation (下に書いたNational Walkout Against Fees and Cutsのマンチェスターにおける行動)
⇒大学を占拠したノッチンガム大学の学生たちの運動
(現在のイギリスの学生運動については⇒UK Uncut is a grassroots movement taking action to highlight alternatives to the government’s spending cuts.)


 2008年の、いわゆる「リーマン・ショック」以降の世界的な学生運動の高揚は、欧米のみならず、中南米やロシア、ウクライナ、バングラデシュ、フィリピンetc.,などにも広がってきた、まさにグローバルな現象である。日本だけが「鎖国」状態になっている観がある。そのせいかどうかは分からないが、日本ではほとんど論じられていないイシューである。「批評する工房のパレット」の読者に、ぜひこの情報を広めていただくよう呼びかけたい。

 とりわけ注目に値するのは、イギリスにおける今回の行動において、1960年代以来の学生による大学の占拠→「自主管理」→「自由大学」が、例え萌芽的形態においてであれ、登場したことである。1960年代の世界的な学生運動が、ベトナム反戦運動の高揚と一体のものとしてあった「知の叛乱」であったとすれば、それから40年後の今回のそれは、まさに学生たちの「生存(サバイバル)をかけた闘い」として総括できるような運動である。その「生存をかけた闘い」において、学生たち自身のイニシアティブによって「自由大学」の模索が生まれていることに意義がある、と私は考えている。

 ところで、日本の状況に目を転じてみると、今日付けの毎日新聞、「大学関係9団体 「予算確保を」」によると、国公立大や私大教職員の全国組織など9団体が1日、「「大学予算は危機的状態にある」として、衆参両院の与野党議員に一斉に要請書を提出した」という。「非常勤講師の組合や学生・大学院生の全国組織も参加しており、「大学の全階層が垣根を越えて結集した、歴史上おそらく初の行動。危機感の表れだ」」と関係者が言ったとのことだ。

 要請書では、「来年度予算で文部科学省が特別枠で概算要求し、政策コンテストにかけられた国立大学法人運営費交付金や私大特別補助の「満額実現」を求めたほか、学費減免や無利子奨学金の拡充、高等教育への歳出を他の先進国並みに引き上げることを求めた。」

 「続・大学を解体せよ」の冒頭でも述べた通り、この「要請書」を仮に民主党政権が丸呑みしたとしても、日本の大学制度が抱える構造的問題とその危機は何も解決することはない。ただいたずらに問題の解決を先送りし、その間、現行の大学システムの温存のために血税が無駄に使われるだけである。

 ①「文部科学省が特別枠で概算要求」するということは、一般会計ではなく特別会計から予算を捻出するということであり、それはただ864兆円になろうとする赤字国債を膨張させ、来年度以降の国債乱発にさらなる拍車をかけるだけのことである。しかも、

②「政策コンテストにかけられた国立大学法人運営費交付金や私大特別補助の「満額実現」」が仮に実現したとしても、「政策コンテスト」や「産官学連携」関連プロジェクトに何の関係もない地方の国立大学法人や圧倒的多数の私立大学が構造的に抱える経営危機を打開する展望など何も見えてこない。

 問題は、③「高等教育への歳出を他の先進国並みに引き上げる」ことにあるのではなく、これまでの日本における「高等教育への歳出」のあり方、そのものにメスを入れることにある。そして、個々の独立法人系研究開発機関の存在理由と、偏差値上位大学本位・優遇でしかない「政策コンテスト=産官学連携路線を大前提にした科学技術のイノベーションをめぐる国策」のあり方を抜本的に問うことだ。

 東大・京大の博士課程を出ても大学に職を求めることができず、非常勤講師を一〇年、二〇年、三〇年(!)続けても常勤講師になることもできず、学士・修士の資格を持っていても就職できない者たちが構造的に輩出され、社会的層を形成するようになった状況にあって、「保護者」も本人も借金地獄に苛まれることなく、どの分野であれ修士課程修了程度の「学識」を身に付けることができるような新たな社会的システムの導入を真剣に議論することが求められている。そしてそれこそが、学歴と学校歴、階層化された社会的資格の有無によって人の生が決まるのではないフェアな社会、知の特権的身分制を廃絶した社会を実現する現代の「イノベーション」になるはずだ。『大学を解体せよ』とは、まさにそのためのビジョンを示すものとしてあったのだが、継続して訴えてゆきたいと思う。

12/2/2010
⇒http://nakano-kenji.blogspot.com/2010/12/blog-post_02.html

平和<PEACE>=グローバル・ランゲージ東京2010
2010年12月4、5日@国際基督教大学(ICU)

平和<PEACE>について真剣に考えているみなさん!産学軍(産業-学術機関-軍事)複合体の支配から世界を解放するために、研究者やアクティビストの力で何ができるか、「ピース・グローバル・ランゲージ東京2010」でぜひ発表してください。企業による大学の乗っ取りが進み、教養課程や人文科学、社会科学が攻撃され続ける中、重要なのはこうした事態がどのように始まったのか、なぜそれが勢いを増しているのか、そしていかに抵抗していくのかを知ることです。

イギリスの大学問題と学生運動に関するちょっとした情報
 イギリスでは、11月24日、National Walkout Against Fees and Cuts(授業料値上げと政府の大学予算削減に反対する全国一斉街頭行動)が予定されている。政府が①最高で現水準の3倍に上る授業料の値上げと、大学に対して②30%の予算カット、③予算配分における「優先順位化」を義務付けようとする新大学「改革」構想に対する全国抗議闘争である。

⇒Students Take to London Streets on Day of Protest Nov. 12, 2010, The Real News
⇒The Death of the University, English Style(大学の死、イギリス方式)
Parliament Square Occupied - Free University open(パーラメント・スクウェア占拠 自由大学開校)

 特に「優先順位化」が、日本と同様に、大学の学部学科とカリキュラムの再編成として現象し、その中でミドルセックス大学(Middlesex University)の哲学科廃止問題が今年になって浮上した。官製版大学解体策が、ネオリベ化する大学に「利潤」を生み出さない人文フィールドの解体策となることは、まさにグローバルな現象であるようだ。詳しくは、「続・大学を解体せよ--人間の未来を奪われないために」の中で紹介したZero Anthropologyに新たに加わったエリザ・ジェーン・ダーリングのDeepwater Uni(深海のウニ)を参照してほしい。