2012年8月1日水曜日

「議論が深まらない社会」(1)--「脱原発依存社会」をめぐって

「議論が深まらない社会」(1)--「脱原発依存社会」をめぐって


 さいたま(7月14日)を皮切りに各地で開催されてきた、政府主催の「将来のエネルギー政策」に関する「意見聴取会」
 そのすべての会場で「議論が深まらない」という批判が噴出した。「原発ゼロ」派の人々だけがそう言ったのではない。電力会社の「回し者」を除き、私には意味がいまだに分からない「15%」や「20~25%」論を支持する一般の人々からも出た批判である。
 しかし、「議論が深まらない」のは原発・エネルギー問題だけではない。東電の「実質国有化」(?)と電気料金値上げ、東北・福島の「復興」計画のビジョン、さらにはオスプレイ配備・米軍再編・「動的防衛力」、「尖閣諸島」の「国有化」と対中政策のあり方から、「社会保障と税の一体改革」(?)さらには「いじめ対策」「地方主権」にいたるまで、およそすべてのことに言えることではないか。

 日本が「議論が深まらない社会」になってしまう最大の理由は、原発依存比率問題と同様に、どの社会問題をめぐっても、議論を「深める」まえに、議論する道筋が官・政・財と「有識者」、さらには主要メディアによって予め決定されているからである。ただの市民の立場から議論を深めようにも、元々議論を深め、議論の結果を政策に反映することなど、とてもできない「仕組み」の下で私たちは「議論」をさせられているのである。

 問題解決・政策決定の先送りと、ただの市民の怒りや不満の「ガス抜き」のために「国政の最重要課題」をめぐる「公の場における議論」を利用するのは、行政官僚機構の「統治のテクノロジー」の常とう手段である。どのような問題、「議論」に関しても、このことは常に肝に銘じておいたほうが良いかもしれない。

 さて、ロンドン五輪のせいで寝不足が続く日々が続いているが、今月は、原発・安保・外交・「いじめ対策」をめぐって「議論の埒外に置かれているもの」を整理しようと思う。 今日、福島で「意見聴取会」なるものが開かれる予定になっているので、原発問題からはじめてみよう。


 「原発のない福島」を宣言した福島で、脱原発を前提としない「エネルギーのベストミックス」論を「議論」するというのは、福島県民、とりわけ「双相地区」と呼ばれる「浜通り」地方の被災、被ばく者を侮辱する行為ではないだろうか。 

8/3
 脱原発や「将来のエネルギー政策」をめぐる議論において、「議論の埒外に置かれているもの」とは何か。
 一つは、福島第一・第二の廃炉→事業所廃止を東電として、また国として決定せずして、2030年における原発依存比率を「議論」することなどできない、ということだ。裏返して言えば、「15%」論はもとより「20~25%」論も、第一・第二の廃炉→事業所廃止を前提しないという仮説のもとに成り立っている「机上の空論」なのである。「15%」「20~25%」論は、東電から「原子力事業」を切り離さない、と言うより東電に「原子力事業」を残す、という前提によって初めて出てくる数字なのである。

 福島第一・第二の廃炉→事業所廃止を前提にすれば--「私たち」はそれを前提しているのだが--、第一5、6号機、第二全4原子炉の廃炉・核燃料処分費用がかかることになり、その結果、東電が希望し民主党政権が認めている東電の企業としての「再生」などありえない話になる。そうなれば、当然、柏崎刈羽の全号機も廃炉→事業所廃止になる(東電以外に事業所を経営する企業体が、新たに登場することはありえないからである)。

 3・11以後、提起されてきた〈問題〉とは東電に「原子力事業」を残すかどうか/東電という企業に「原子力事業」を任すことができるのかどうか、である。東電は、原発事業の継続をさも当然のごとく考え、民主党政権もそれを前提に「実質国有化」→「東電再生」を画策してきたわけだが、この〈問題〉から決着をつけなければ、日本における「原子力行政」の未来も、未来における「エネルギー行政」の在り方を議論することも、到底できないのである。
 なぜなら、東電から原発事業を切り離し、「電力供給の地域独占」を解体すれば、それがドミノ式に関西をはじめ全国各地に広がることになり、市場独占と原発が一体となって初めて成り立ってきた各電力企業の存立そのものが、根底から崩れ去ることになるからだ。
 この「ドミノ的な電力企業の崩壊」を阻止するという「原子力ムラ」の策略、それが原発維持→推進を前提した「ベストミックス」論の本質であろうと私個人は考えている。要するに、すべてがデタラメなのだ。


 二点目は、一点目とも関連するが、「原発のない福島」抜きに、脱原発も将来の「エネルギー政策」も語れるはずもないのに、福島が直面する問題と切り離して「原発・エネルギー問題一般」が語られている傾向が、きわめて強いことである。
 その意味では、全国各地で行われてきた「意見聴取会」なるものは、原発・エネルギー問題を〈福島〉と切り離そうとする舞台装置なのだとは言えないか。 

〈福島〉の現実 
 国や福島県、また市町村レベルの自治体の「復興振興」の大合唱とは裏腹に、原発大惨事が震災被害に追い打ちをかけ、福島の復旧・復興工程は遅々として進まない状況にある。
 「原発事故の収束なくして福島の復興はありえない」と、これまで何度も語られてきた。しかし福島第一1~4号機の「収束」作業は、今後30~40年はかかると言われ、しかもそれで作業が完了する「科学的根拠」は何もない。そもそも「収束」することがありえるのかどうかも定かではない。

 根本的な問題は、原発の「収束」作業と同時進行する形で、一方における自治体の「復興」事業と、他方、国と東電の責任回避・賠償額の軽減のみを目的とした「避難・警戒区域」の再編→被災・避難住民の「帰還運動」が行われてきたところにある。
 その結果、除染は進まず、汚染ガレキの処理、「仮置場」や「中間貯蔵地」問題も解決に向けた進展もみられず、言わば2次・3次の被災/被ばく被害が広がっている。(こうした状況の中で、双葉町と並ぶ福島第一原発の立地自治体である大熊町の住民が、国に対して突きつけたのが、「緊急要望書」だった。)

 〈福島〉が直面する問題は震災と原発惨事ばかりではない。
 「災害後の被災地では、災害前の社会矛盾が剥き出しになる」とは震災後しばしば耳にした言葉であり、東北全域の被災地に共通して言えることだが、すでに災害前の被災地で社会問題化していた諸矛盾が浜通り地域を中心に福島でも「剥き出し」状態になっている。
 全般的な「少子・高齢化」社会の進行、「限界集落」の存在、社会保障・医療‐介護制度の崩壊的危機、さらには「格差・貧困」社会の中の「都市と地方の格差」の拡大等々である。

 このように、福島の再生・復興に向けた課題は、きわめて多岐にわたっている。ざっと思いつくだけでも、
①すべての人々に対する被ばく医療を含む医療保障(現在の居住地を問わない)、
②福島県内外の仮設住宅・「借り上げ」住宅に住む被災者への支援、
③きめの細かい放射線量の実態把握と情報公開(住民への周知)、および汚染された県内各地の除染促進と住・自然環境の回復、
④右の①から③の実現と深く関わる国・東京電力の法的責任の明確化と賠償請求、
⑤農業を始め漁業、牧畜、地元企業などの再興、
⑥「原発に依存しない福島」に向けた福島第一・第二原発(東電)全10原子炉の廃炉、計画中の浪江・小高原発(東北電力)の計画撤回、その他「原子力産業」の撤廃。

 これら以外にも
・相双地区(いわき市を除く「浜通り」地域)の「仮の町」構想の実現、
・3・11事態を踏まえた今後の「原災・防災対策」→机上のシミュレーションの域を超えたことは何もされていない
・福島第一原発の「収束」作業に従事する労働者の被曝防護と権利保障、
・教育現場における脱原発なき「放射線教育」の問題性等々、問題は限りない。

 脱原発派の人びとには、こうした〈福島〉の現実を具体的に改善する支援を訴えたい。
 そして原発維持派人びとには、こうした〈福島〉の現実が自分の自治体で起こったとしたらどうするか、そのことを起点に「原発・エネルギー」問題を考えてほしいと思う。
 
・・・
8/3
「エネルギー政策:「討論型世論調査」」? 「電力会社関係者を排除せず 無作為抽出で」? 私には単なるボイコットの対象にしか思えないが、どうだろう。これまでの「意見聴取会」においても7割以上の人が原発ゼロ派であることが明らかになっており、議論が深まるはずもないこんな「調査」にさらに税金を投入することは犯罪的行為にも思えてくるのだが・・・。
<エネ庁課長>原子力委に脱原発検討しないように要請(毎日)
「・・・経済産業省資源エネルギー庁の吉野恭司原子力政策課長が昨年12月、政府の原子力委員会に対して「脱原発シナリオの分析を行うことは、慎重派を勇気づける材料にはなっても、原子力を維持する材料にはならない」などとする文書を示し、脱原発の検討を当面控えるように要請していたことが3日分かった」
「枝野経産相は文書について「個人的に作成されたメモ」としながらも「政府が原発維持を画策していると受け止められてもやむを得ない」(???)と指摘した。経産省は同課長を厳重注意処分(!!)とした・・・」
核燃サイクル:秘密会議問題 「会議は政策調整の場」 内閣府検証、原子力委の主張覆す(毎日)

8/2
ほぼ全員「原発ゼロ」 福島でエネ・環境意見聴取会(福島民報)
「・・・意見を聴く会は4日に高松市と福岡市で開かれ、全日程が終了するが、本県の意見聴取会を含め発言者の意見がどの程度、新たにまとめられる「エネルギー・環境戦略」に反映されるかは不透明だ。 意見聴取会に出席した細野豪志環境相は、意見の取り扱いについて明言を避けた
福島怒りの聴取会 政府不信一色(東京)
「・・・将来0%どころか「すべての原発の即廃炉」を求める声が相次いだ。政府は事故収束宣言や原発再稼働など県民の心を逆なでしてきたため、政府への不信感や怒りの声に染まった・・・」「政府ではだれも事故の責任を取っていない」「何の根拠があって収束宣言したのか」「あれだけの事故があったのに、もう再稼働させてしまった。失礼だ」「山も森も放射性物質。そんな中で再稼働に踏み切った政府に憤りを感じる」・・・ こうした聴取会が単なるガス抜き、アリバイづくりではないかと、根深い不信感を口にする人も多かった・・・」
国の対応に批判噴出 福島と南相馬で衆院復興特別委(福島民報)
東日本大震災:福島第1原発事故 福島地検、東電幹部らへの告発状を受理(毎日)
8/1
楢葉町、役場帰還目標は14年4月 10日に区域再編(福島民友)
【汚染廃棄物処理】 対立の解消に努めよ (福島民報・社説、7/30)
福島県立医大:今春卒業生、県内勤務は3割余 過去最低(毎日)
「・・・医学部卒業生のうち県内に勤務したのは3割余の26人で過去最低」「原発周辺の自治体では現役医師の流出も問題となっており、避難区域再編で住民の帰還が進もうとする中、県は「医師不足で医療機関が機能しないと安心して戻れない」と頭を悩ませている・・・」
・「福島で足りないもの」(南相馬市立総合病院 神経内科 小鷹 昌明、7/13、MRIC by医療ガバナンス学会)
福島の男性 厳しい婚活 県外お見合い ほぼ門前払い(東京)

・・・
志賀原発直下断層、国が見逃しか 北陸電が80年代に追加調査
 北陸電力志賀原発1号機(石川県)の直下に活断層が存在する可能性を経済産業省原子力安全・保安院が指摘している問題で、旧通商産業省や原子力安全委員会が1号機建設の安全審査をしていた1987~88年、北陸電がこの断層の追加調査を2回実施していたことが29日、分かった。
 活断層を疑う根拠とする図面は、この追加調査のデータ。当時、国の審査が「活断層」の疑いを見逃した可能性が浮上、原発の安全審査のあり方が根本から問われそうだ。 北陸電は追加調査を「断層の活動性を確認するためだった」と説明。保安院は1号機の審査経緯を検証する考えはないとしている。(共同)

静岡県が原発協から脱退意向 再稼働推進の要請書に反発
 静岡県の川勝知事は30日、原発が立地するか立地予定の14道県でつくる原子力発電関係団体協議会を脱退する意向を示した。協議会が8月にも国に提出するエネルギー政策に関する要請書に、原発再稼働を推進するような文言が盛り込まれているため。
 県によると、要請書の文案に「前のめりで原発再稼働を進めようというような表現」や「再稼働ありきの内容」があるといい、静岡県は意見を集約している青森県に内容の修正や提出の撤回を求めている。 川勝知事は県庁内で「原発に依存する割合は地域で違い、静岡は依存度が低い。原発に依存しないといけない電力会社の管内とは事情が違う」と強調した。(共同)