2013年1月28日月曜日

オスプレイ阻止: 「平成の沖縄一揆」

オスプレイ阻止: 「平成の沖縄一揆」

NO OSPREY 東京集会等録画 (1) (2) (3) (琉球新報

・オスプレイ阻止 島ぐるみ (沖縄タイムス)

・「・・・東京・日比谷野外音楽堂で開かれた集会。
集まった約4千人を前に、翁長雄志(おながたけし)・那覇市長は「沖縄県民は目覚めた。もう元に戻らない。日本国も変わるべきだ」と訴えた。
 「これは平成の沖縄一揆なんです」。県議が声を張り上げると、会場から拍手が湧いた。
 「民主主義の世の中でこれ以上に手段はない。沖縄の不退転の決意を、政府はしかと受け止めてほしい」・・・」(朝日 「オスプレイ、異議可決5県 沖縄の痛み届かず」)

「沖縄は日本に入っているか」=オスプレイ反対4000人超-地元首長ら集会・東京 (時事)

2013年1月27日日曜日

コミュニケーションの困難、もしくは不在、そして必要性を痛感させるテキスト

コミュニケーションの困難、もしくは不在、そして必要性を痛感させるテキスト

 一つのテキストを紹介したい。
 福島県有機農業ネットワークが、1月20日、「公開討論会原発事故・放射能汚染と農業・農村の復興の道」を開催したが、その報告文である。(http://fukushimayuuki.blog.fc2.com/blog-entry-102.html
 
 各パネリストの発言要旨がリアルタイムでネットに公開され、討論会の模様をうかがい知ることができる。参加できなかった者も、これを読むと、当日の討論の白熱した緊張感を感じ取れるので、ぜひ一読をすすめたい。

 討論者4人の顔ぶれは次の通り。
小出裕章:京都大学原子炉実験所助教
明峯哲夫:有機農業技術会議代表理事
中島紀一:茨城大学名誉教授
菅野正寿:福島県有機農業ネットワーク
 この4氏の、ある意味では激論のコーディネータ役をコモンズ代表の大江正章氏がつとめた。

 まず、討論会の「開催趣旨」を確認しておこう。
今回の原発事故を経験して、有機農業と原発は原理的に相容れないことを痛切に実感しました。
 同時に有機農業は安全性論だけに依存しすぎていたことへの痛切な反省も迫られています。
 今回の公開討論会ではそうした認識を踏まえて、以下の諸点について語り合いたいと思います。

放射能の危険性をどのように認識するのか。特に、内部被ばくと低線量被ばくの危険性認識をめぐって。
「危険だ、避難せよ」という判断と呼びかけをめぐって、農業と風土的暮らしは土地を捨てては成り立たないことをどう考えるか。安全性の社会的保証と被災地復興の追及は、簡単には両立しないのではないか
放射能汚染の下で自然はこれからどのように推移していくのか。人は逃げられるが自然は逃げられない
科学者の役割とあり方。危険の中に生きる人びとへの助言も必要。煽ることから冷静な認識は生まれない

 討論会冒頭、小出氏が切り出す。
福島原発で放出された放射性物質は、広島・長崎の数百発分。二本松市における汚染は、1平方メートルあたり6万ベクレル。放射線管理区域の基準は1平方メートルあたり4万ベクレル。
 大地そのものが汚染されている。本当ならその地から人を引き離さなければならない状態。被ばくをしながら福島の農民は生きている。それにどう立ち向かうかが今日の課題。
このような場所には住むべきでない。すぐに移住すべき。

 この発言を受け、菅野氏が応答する。
阿武隈はアイヌ語で牛の背中という意味。
桑畑も荒れ放題という中で、地域づくりを進めてきた。首都圏の皆様との産直提携を進めてきた。
県外に16万人も避難している。異常な状況である。
 低線量被ばく、内部被ばく(野菜を食べる)が福島県の住民を不安にさせている。年間の被ばく量を5ミリシーベルトにするのか1ミリシーベルにするのかで国も迷っている状況。
二本松市は、毎時0.8ミリシーベルとのところもある。娘は、ホールボディカウンターでNDとなったが、カウンターにも検出限界というものがある。基準が体に与える影響が分からないのが問題。
 学校給食で地元産の米を使うようになったが、野菜は復活していない。住宅除染も始まり、1戸あたり80~100万円。大手ゼネコンが行っている。
 線量も元に戻ってしまっている。杉林とか松林とかの場所が線量も高い。
いくら住宅除染をしても元に戻ってしまう。周辺の森林除染をすべき。大手ゼネコンが行っている除染を住民で行う必要がある。
 復興のプロセスに住民をもっと参加させるべき。
 今回の問題を食べる食べないとか、逃げる逃げないという狭い議論にして欲しくない。
 地方に何もかも押し付けてきた、日本の歴史の問題。歴史の縦軸で考えていきたい。
 

 冒頭からこのような感じで討論会は進行してゆくのだが、言うまでもなく、討論会参加者に問われているのは、上にある討論会開催趣旨の①~④をめぐり、自分の個人的見解に近いパネリストの発言にうなずき、拍手喝采することにあるのではない。
 むしろ、今必要だと思えるのは、自分の個人的見解と相容れない見解を持つ者たちと、いかにコミュニケーションをはかり、議論を深め、それぞれの持ち場の活動の内容や質を広げ、高めてゆくという志向性ではないか、と私は思う。とりわけ脱原発・福島支援活動においては。

 自分の見解と相容れない者との対話や議論を閉ざし、同一あるいは親和的な見解を持つ者同士の間で活動をいくら続けても、そのような運動の内実が広がりを見せることは、まずありえない。時の経過とともに先細りするのが常である。
 
 日本の社会・市民運動が、今在るような現実になってしまった背景には、一言で言えば「独善的な排他性」が大きく作用してきた、という認識はかなり広がりつつあると言ってよい。
 しかし、私たちが社会・市民運動やNGO運動の傍観者や研究者一般ではない以上、問題はむしろこの認識をこそ出発点にせざるをえないところにある、ということだと思うのだ。これは結構、シビアなもんっだいである。

 人間という動物、そして「私」という人間は、果たして自分が「正しい」ものと設定する目的や、いその実現のための方法をめぐり、どこまで「独善的排他性」を克服・排除することができるのか。そして、異論を持つ者たちと協働関係を結ぶことができるか――。

 福島、被曝、子どもをどうするか、そして有機農業の未来・・・
 討論会は、とりわけこの40年ほどの日本における「有機農業」や「エコロジー」の運動的・思想的総括の必要性にまで言及しているがゆえに、きわめてアクチュアルな問題群へとここからさらに発展する可能性を秘めている。

 討論会で提起されている、ある特定の問いに対し、自分はどのような立場に立つのか、まずそのことをひとりひとりがはっきりさせる必要がある。その上で、自分と同一の立場に立たぬ者に対し、何をどのように語るか。
 一読と一考をすすめたい。

2013年1月25日金曜日

福島の情報発信サイト「Fukushima on the Globe」オープン(英語)

 原発震災後の福島と世界をつなぐポータルサイト”Fukushima on the Globe”がオープンしました。
 福島の状況に関心を持ちながらも情報にアクセスできない海外の人たちへ、現地の最新情報を多面的な角度から英語で発信していきます。
 詳細はこちら http://fukushimaontheglobe.com/
 (JANICより)

2013年1月24日木曜日

アルジェリア人質事件の顛末について

アルジェリア人質事件の顛末について


 アルジェリアの人質事件が最悪の事態となり、フランスのマリ軍事介入も人質事件同様、最悪の事態になろうとしている。このままゆけば、マリは間違いなく第二のアフガニスタン、イラク、そしてソマリアになってしまうだろう。

 今回のマリ軍事介入の目的が「国土統一」にあり、イスラーム武装勢力の「完全掃討」にあるとフランス国防相が宣言してから4日が経とうとしている。しかし、すでに述べたようにマリ北部の独立あるいは連邦制的自治とトゥアレグを中心とする諸民族の集団的権利の承認なくして、マリ内戦が終息することはありえない。

 また、アルカイダ「系」武装勢力とトゥアレグの武装勢力を同一視し、そのすべてを軍事的に解体することも不可能である。戦局的にフランス軍と政府軍が優勢であるかのような情報が流布されているが、それは武装勢力側が戦略的に後退し、部隊の損傷を受ける前に占領した一部南部や中部地域から撤退したため、と見るべきだろう。かれらは明らかに「地の利」を生かした持久戦に持ち込もうとしているのである。

 武装勢力を含めたトゥアレグの政治勢力との和平交渉を拒否し、さらにトゥアレグの自治(autonomy)と集団的権利を全否定することは、トゥアレグの武装勢力をアルカイダ「系」武装勢力との統一戦線の形成に向かわせるだけだろう。「戦争は政治の継続」という古典的表現があるが、フランスおよび安保理常任5大国にEUやカナダ、またマリ周辺諸国の軍事戦略には〈政治〉がないと言わねばならない。

 考えてもみたい。
 たかが3000人程度のフランス軍と同規模のマリ周辺諸国連合軍によってマリの全武装勢力を「完全掃討」など、できるはずがない。このことは12年目を迎えようとするタリバン政権崩壊後のアフガニスタン戦争の実態を知る者には、まさに自明の理であるだろう。その意味では、フランスやフランスと利害・権益をともにする国々の政府は自ら進んで、また新たな「闇の奥」=「地獄の黙示録」の世界を再現し、戦慄が走るその世界に有無を言わさぬ形で私たちを引き入れようとしているのである。

 私はフランスのマリ軍事介入にも、アルジェリア政府の人質事件に対する「措置」にも戦慄が走る。「アルカイダ=テロリスト」という観念の下で、戦慄を戦慄として意識する感覚が麻痺してしまうことに戦慄が走る。

 私たちは--「日本社会は」と言ってもよいが--果たしてどこまでフランス政府や、今回の軍事介入を支持し「絶賛」した米国政府、さらにはフランスが「断固支持」したアルジェリア政府などと、どういう「価値観」を共有しているのか? そこからもう一度考え直したほうがよさそうである。


 今後、場所を変えて再発するかもしれない今回のような事態に関連し、とり急ぎ指摘しておきたいことがある。それは、「テロリストとは交渉しない」という問答無用の政治的言説にこそ対テロ戦争の本質が隠されているということである。

 この十数年間にわたり、「貧困」こそが「テロの温床」であるかのような言説が米国や国連から流布されてきた。しかし、そうではないと私は思う。非国家主体が武装闘争へと傾斜する契機には、国内的また国際的な政治問題の交渉による解決を、国家の側が一方的に拒否することに原因がある場合が圧倒的に多いからだ。

 抑圧的国家にとって反政府勢力を押しなべて「テロリスト」と定義し、問答無用で弾圧することほど都合のよいことはない。それはまた、そうした抑圧的国家に利権を有する第三国にとっても同様である。マリのケース然り、アルジェリアのケース然りである。

 とりわけ、今回のような最悪の結果を招いた人質事件の場合、私たちは国家に徹底して、最後の最後まで「テロリスト」と交渉してもらわねばならない。交渉によって救えたはずの人命も多かったに違いないからである。そして、アルカイダ「系」とはいったい具体的に何をさし、「テロリスト」とはどのような組織であり、どのような主張、要求をしているのか、メディアを通じてその交渉の全過程を世界中に明らかにしてもらわねばならない。

 国家による無差別殺人=虐殺とも言える今回のような問答無用の措置、すなわち対テロ戦争に名を借りた国家による殺戮は、ただ場所を変えた非国家主体の報復を招くだけだということを、私たちは対テロ戦争12年の歴史を通じて学んだのではなかったか。

 米国本土に対する9・11的自爆攻撃こそまだ起こっていないが、対テロ戦争は世界で9・11を数十倍する一般市民の犠牲を生み出してきた。軍事的にも政治的にも、そして経済的にもこの戦争は明らかに破綻しているのである。

 安倍政権が今回の事態をどのように総括し、何を語るか。 相も変らぬ「日米同盟を強化し、国際社会と協調する」の繰り返しだろうか。
 注目しよう。

・・・
「皮膚の色が薄い」 マリ軍兵士が遊牧民など33人処刑か 人権団体が調査要求 (産経)
マリで人権侵害横行=政府軍が住民殺害-人権団体 (時事)
仏のマリ軍事介入に支持の声 (NHK)
「・・・世界経済フォーラムの年次総会、いわゆる「ダボス会議」がスイスで始まり、出席したアフリカの政府首脳からは、西アフリカのマリへのフランスの軍事介入を支持する意見が出されました・・・。
・・・ナイジェリアのジョナサン大統領は、「マリでの状況が沈静化しなければ、影響は西アフリカ諸国などに波及するだろう。われわれはフランスに感謝しなければならない」と述べ、フランス政府の軍事介入を支持する考えを示しました・・・。」

2013年1月16日水曜日

マリを「第二のソマリア」にしてはならない ~フランスの軍事介入が失敗に終わる理由

マリを「第二のソマリア」にしてはならない
~フランスの軍事介入が失敗に終わる理由

アルジェリアで複数の日本人拘束(産経号外、pdf)

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、マリでは昨年11月段階において、すでに20万以上にのぼる国内難民が家屋を追われ、北部から南部へ、あるいはニジェール、モーリタニア、ファソなどの周辺諸国へと逃れていたいたという。また、この間の旱魃と飢饉による難民を加えると35万人が難民化しているという。UNHCRはさらに、オランデ・フランス社会党政権による今回の北部主要都市に対する空爆が開始されて以降、この数日間において確認されているだけでも1万人を超える人々が国内外の「難民キャンプ」に逃れていると報告している。

 UNHCRは、マリでのミッションを展開するのに資金不足だと嘆いている。各国に要求している額の6割程度しか集まっていないと。
 しかし、本当にUNHCRが難民の帰還と、これ以上の犠牲者を出さないことを望むのであれば、UNHCRは国連の一機関、しかも人権・人道機関として軍事介入の当事国である安保理常任理事国たる仏米英と安保理に対し、
①空爆・戦闘行為の即時停止と、
②「暫定政府」と北部武装勢力との停戦-和平交渉の調停の開始を提案すべきではないのか?

 戦闘行為の中止も、和平交渉の調停もなく、半永久的に国家と非国家武装組織によるテロの応酬が続いてゆく・・・。 ソマリア、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、そしてマリ・・・。これはいったい何なのか?
 まさにこれこそが、2001年「9・11」に始まった対テロ戦争時代たる現代の「戦争と平和」の現実なのだが、安保理常任5カ国が意思決定を左右する国連システムも、また個別の国家も対テロ戦争を停止する気配はみられない。 「オバマの暗殺リスト」にみてとれるように、むしろ永続化させることを望んでいるかのようだ。

 国家と非国家主体によるテロの応酬戦の犠牲になるのは、いつの時代も、どこの国・地域でも非戦闘員である。非戦闘員の犠牲を出さない戦争など歴史上、存在したためしがない。 言うまでもなく、対テロ戦争もその例外ではない。殺されるのは「テロリスト」だけではない。
 対テロ戦争が永続化し、その最大の犠牲になるのが常に非戦闘員であるなら、いつか、どこかで私たちは国家と武装勢力によるテロの応酬戦に歯止めをかけねばならない。 マリ内戦において、その可能性はどこに見出せるだろうか。

〈トゥアレグとマイノリティの集団的権利の保障 --マリ内戦停止と和平の条件〉
① 1960年代から半世紀にわって続くトゥアレグのマリ中央政府に対する叛乱には、中央政府による歴史的なトゥアレグに対する民族差別の歴史が横たわっている。

 私たちが知っておかねばならないのは、「アルカイダと関係/連携するイスラーム武装勢力」が北部において軍事的に影響力を行使するようになるのは、半世紀におよぶトゥアレグの民族運動の歴史から見れば、ほんの一時期、この数年のことに過ぎないということだろう。しかも、トゥアレグのすべてがイスラーム教徒でもなければ、アルカイダ系武装組織を支持しているわけでもない。

 つまり。オランデ政権やオバマ政権が軍事介入の正当化の根拠としている 「アルカイダ系テロリストとの戦い」という言説自体が、歴代マリ中央政府によるトゥアレグに対する民族差別や民族運動への弾圧という、マリ内戦がかかえる本質的で政治的な問題を見えなくさせているのである。

② 戦闘行為の停止と和平交渉の開始のために必要なことは、フランスとその連合軍、および政府軍による北爆と北進の中止、また武装勢力側の南進の中止である。そして停戦ラインの確定である。

 事態はすでに、非和解的な内戦の長期化と泥沼化、マリの「第二のソマリア化」に向けて絶望的に歩みだしている。しかし、これ以上のマリにおける対テロ戦争=内戦の犠牲者を出さないための必要最低条件はこれ以上に考えられない。 問題は、本来であれば国連の紛争仲裁機関がそのための役割を果たすべきなのだが、とても現事務総長下の国連からそのようなことを期待することはできないこと、まだどの第三国・国際機関もそうした調停に向けた動きを見せていないことである。

③ マリ北部の「連邦制的自治」の承認
 南スーダンのように、昨春「独立宣言」を発した「アザワド」の分離・独立を南の中央政府と国際社会が承認することが、内戦終結-和平合意の締結に向けた最短の道だと私は思う。しかし、現実には、マリ周辺諸国と「国際社会」の承認と圧力がなければ南の「暫定政権」がこの案を受け入れるとは思えない。

 すでにみたようにトゥアレグ民族の居住地域は周辺4カ国を中心とし、さらにその他諸国にも広がっており、アザワドの独立承認は即座にマリ以外の国々における国家内のトゥアレグその他諸民族の独立・解放運動に飛び火するからである。
(→しかし、だとしたら「なぜ南スーダンの独立が可能となったのか?」、このことからもう一度私たちは考え直す必要に迫られそうである。その意味では、アザワドの分離・独立が現実論としてありえないのではなく、トゥアレグの民族的権利を取り巻く「現実政治」がアザワドの誕生をありえないもの、と私たちに観念させているだけと言うこともできる。)

 けれども、さらにその一方で、アザワドの「独立宣言」はすでに一つの歴史的事実として存在している。この歴史的事実を抹殺することが今回のフランスの軍事介入の目的になっているようにも見受けられるが、「アルカイダ系」ではないツゥアレグの武装組織にとって、そんなことが容認できるはずはない。

④ ここでもう一つ、マリ内戦の早期停戦を実現するために「国際社会」が知っておかねばならないことがある。それは、昨春のアザワド独立宣言以前に、北部武装勢力と中央政府との間で度重なる停戦交渉と和平合意が繰り返されていたこと、そして「独立宣言」は2006年7月の停戦-和平合意が破綻した結果の産物だったということである。

 下の参考サイトにある「アルジェリア合意」に至る過程、またその後の合意の破産の過程については触れる余裕がない。
 ここで重要なことは、この合意に向けた交渉過程において当初「北部におけるトゥアレグの自治」を要求項目にあげていたトゥアレグ側が、マリの「主権的統一」の保持を譲らなかった中央政府側に妥協し、「自治」の要求を取り下げたことである。
 主な合意事項が、
1、 「治安」(麻薬・武器密輸・人身売買などに対する治安の強化を意味している)と
2、「経済成長(発展)」(アフリカ第三の金産出国であるにもかかわらず、中央政府の差別的政策の結果、絶対的貧困にあえぐ北部国境地帯への行政サービスと社会的資本投下を意味している)となっているのは、そのためである。

 「アルカイダ系イスラーム過激派撲滅」を口実した今回のフランスの軍事介入と、クーデターにクーデターに繰り返してきたマリ中央政府軍、そしてこれを支援する米英加(カナダはすでに後方支援のための軍を派兵し今回の軍事介入に参戦している)、そして西アフリカ諸国の本当の狙いがトゥアレグの民族自決と自治を求めるたたかいを抑圧し、押しつぶすことにあることは、以上の歴史的経緯からも明白だと言わねばならないだろう。

(つづく)

【参考サイト】
Mali: A Timeline of Northern Conflict(allAfrica.com)
4 July 2006: Accords of Algiers signed by government and ADC, with peace agreement focusing on need to bring security and economic growth to Kidal, Mali's 8th region and the most remote from the capital.

・・・
マリ中部の都市を武装勢力が制圧 各国が対応を協議
「・・・イスラム武装勢力が中部の都市ディアバリを制圧した。ルドリアン仏国防相の話としてCNN系列局BFMテレビが伝えた・・・。
・・・フランスの国連大使は、首都バマコを武装勢力に制圧される事態を阻止するために介入が必要だったと強調、「国家としてのマリの存続、ひいては西アフリカの安定がかかっていると判断した」「軍事介入のほかに選択肢はなかった」と語った・・・」 (CNN 1/15)

マリ駐留仏軍、拠点奪回へ初の地上攻撃か
「・・・仏軍は空爆主体の作戦を転換、初の地上攻撃に向け動き出した模様だ。 AFP通信によると、仏軍は装甲車約30台を連ねて15日、首都バマコを出発した。バマコ北方400キロのディアバリを目指していると見られ、マリ治安関係者は「我々は仏軍と共に明日までにディアバリを奪回する」と述べた。 ディアバリはマリ政府の支配下にあったが、武装勢力が14日、空爆をかいくぐり南進、占拠しており、仏側は危機感を強めていた。
 ルドリアン仏国防相は・・・、仏軍の空爆は1700人体制で行っていると述べた。アフリカ中北部のチャドや仏本土が戦闘機の出撃地となっている。国防相はまた、マリ中部の要衝コンナを武装勢力から奪回できていないことも明らかにした」(読売 1/16)

フランス、マリへ増派 2500人規模に
「・・・増派の具体的な時期は不明だが、仏軍は段階的に兵力を増強し、イスラム過激派への圧力を強める構え。過激派は近代的な装備を整えているとも伝えられており、今後は仏軍との戦闘が泥沼化する懸念もある。オランド大統領は「マリの安全が確保できればアフリカの人々に(今後の対応を)委ねる」と述べ、問題の解決に積極関与するよう周辺国に促した・・・」(日経 1/16)

マリ:仏地上部隊が進攻 中部の武装勢力拠点奪還へ (毎日 1/16)

2013年1月15日火曜日

フランスのマリへの軍事介入: ~「対テロ戦争」? それともトゥアレグ遊牧民族の民族自決と自治の圧殺?

フランスのマリへの軍事介入: 
~「対テロ戦争」? それともトゥアレグ遊牧民族の民族自決と自治の圧殺?

フランス社会党政権によるマリへの空爆・虐殺が激しさを増している。
 14日のNHKの報道やその他の外信よると、オランド政権は反政府武装勢力の南進を阻止するにとどまらず、昨春に「独立宣言」が発せられたマリ北部の主要都市への空爆を含めた攻撃を強めると宣言している。
・・
・「フランスのルドリアン国防相は、武装勢力による進攻を阻止するため、前日に続いて、13日も中部の主要都市で空爆を行ったことを明らかにしました。 そのうえで、「テロリズムを根絶する」として、武装勢力がすでに制圧している北部に対しても攻撃を拡大する考えを示しました」(NHK)
・・

 このフランスによるマリへの軍事介入をどのように考えれるべきか?
 また、一昨年のコートジボワールへの軍事介入に続く、フランスの連続的な旧植民地に対する軍事介入は、今後どのような結果をマリや周辺諸国、さらにアフリカ大陸全体、ひいては国際社会にもたらすのか。 以下、この問題に対する私見を簡潔に述べてみたい。

1 仏米英による「対テロ」共同軍事作戦
 「フランスのマリへの軍事介入」とメディアは表現し、私も便宜的にそう書いているが、今回の軍事介入がすでにイギリス軍と米軍を含めた仏英米の共同軍事作戦として展開されていることを最初に確認しておく必要がある。

 イギリスに関しては、ガーディアン紙やBBCがすでに報じているように、フランスの前方展開に対する輸送・兵站などの後方支援活動を行うことが決定されている。 また、20日の大統領就任式までは表立った動きができない米国は、アフリカ司令部・CIAを通じた後方支援・情報・通信面によるフランス軍に対する支援を公式に表明し、今回の軍事介入にすでに実戦的に関与している。
(米軍・CIAは、ソマリアにおけるフランスの「諜報員救出作戦」=アル・シャバーブとの戦闘にも関与している。)
・France’s defense minister says the United States has "seconded" its intervention, reportedly providing intelligence as well as transportation and communications support.
・In a letter to Congress, Obama disclosed U.S. forces provided support to French troops in a failed effort to recover a French secret agent captured by Somali militants.(Democracy Now! 1/14)

 サハラ砂漠の(半)遊牧民族トゥアレグの領域、民族自決、そして自治
 仏米英軍によるマリ軍事政権に対する軍事支援および軍事介入の背景を理解するためには、マリ北部の〈先住民族〉、「砂漠の民」トゥアレグの民族史を理解しておかねばならないだろう。

 一部ではトゥアレグ=イスラーム教徒=過激派=テロリストといった誤った印象を植えつける報道が意図的に流布されているが、そうした民族的ステレオタイプと差別・偏見を払拭することから始める必要がありそうだ。 とりわけ、対テロ戦争国家連合のメディアが発信する「情報」を垂れ流すことしかしない日本の主要メディアと、その「情報」にさらされ、感化されがちな私たちは特にそう言えそうである。

 昨春、マリのトゥアレグの武装勢力が、azawad(英語表記)と呼ぶ北部地域の「独立宣言」を発したが、トゥアレグにとってこの地域は居住するほんのごく一部の地域でしかない。
 つまり、19世紀から20世紀初頭におけるヨーロッパ列強による「アフリカ分割」=植民地支配の結果、トゥアレグの存在を黙殺しながら人工的に構築された「マリ」という近代国家の国境を前提にした「境界線」は彼/彼女らにとっては無効なのである。→ サハラ砂漠の中心部から東西南北に広がるトゥアレグの領域(テリトリー)については、左のサイトにある地図で確認できる。
(Desert Dwellers: Today the heart of the Tuareg region is divided among four nations. Rich uranium deposits located on their grazing lands remain a contentious issue with the Niger government. /National Geographic)

 上の地図の地域をほぼ網羅する形で、トゥアレグには7つの地域にまたがる独自の統治機構・連合組織と政治組織があるという。それらを列挙すると以下のようになる。サイトに掲載されている各地域の色を参照しながら確認してほしい。
  • 1 - Pink (top right): Azger Confederacy: located in Libya & Algeria: includes the Libyan oases of Ubari & Ghat.
  • 2 - Pink (lower right): Ayer Confederacy: located in Niger, also written Aïr, Air or Ayr.
  • 3 - Pink (left): Awellimedden & Kel Athram Confederacy: located in Mali, includes Timbuktu.
  • 4 - Yellow (top): Ahoggar Confederacy, located in Algeria: includes the oasis of Tamanrasset.
  • 5 - Yellow (middle, below 4): Tkerekrit Confederacy: located in Niger & Mali: includes the oasis Agadir and Tawa.
  • 6 - Light-Blue: Tamezgda Confederacy, located in Niger.
  • 7 - Orange (below 4): Agres [Kel Gress] Confederacy: located in Niger and Mali.


  • 3 対テロ戦争の民族的性格
     現在のマリ、ニジェール、リビア、アルジェリアの他にもマリと国境を接するモーリタアやファソなどにもトゥアレグの居住地域があると言われているが、いずれにせよ以上の情報を見るだけで今回の軍事作戦の背景に、各国の既存の国境線を越えたトゥアレグの民族運動が存在することがわかるだろう。 それは実に広大なサハラ砂漠に広がっている。
     現在、その政治的拠点になっているのがマリの北部地域とニジェールのトゥアレグのテリトリーなのである。

     アフリカ大陸屈指の石油産出国、ニジェールのトゥアレグのテリトリーにはウラン鉱脈が眠り、マリはアフリカ大陸第三の金の産出国だ。このニジェールの石油とウラン採掘、マリの金採掘によって莫大な利益を得てきたのがフランス、イギリス、米国、カナダなどを拠点とする石油メジャー、多国籍企業であることは言うまでもない。→マリの金採掘に関する情報はこちらを参照のこと。

     こうした①石油・天然ガスなどのエネルギー資源や鉱物資源開発、また②アフリカン・パーム(やし)のプランテーションや、③先進主要国の「二酸化炭素削減」のためと称して行われている「植林」活動のための土地・農地強奪などをめぐり、「21世紀のアフリカの再分割」とも言える覇権の再形成が、フランスを始めとする旧植民地宗主国に米国・カナダ、さらに中国・ロシアなどを加えながら展開されてきた。それはここ数年、とりわけ急激な中国のアフリカ進出の煽りを受ける形で激化する一方になっている。

     しかし、欧米の左翼的分析家、研究者、活動家に顕著なのだが、アフリカにおける対テロ戦争を石油メジャーや多国籍資本の利害を中心に論じることは、問題の一つの側面を捉えているに過ぎない。
     たとえば、旧宗主国フランスおよびマリ中央権力に対するトゥアレグの民族自決・自治を求める政治的闘争はマリ「独立」直後の1960年代初頭から、武装闘争をはらみながら戦われて来た。 マリやニジェールに示されるように、欧米資本、また中国その他の開発戦略に抵抗するアフリカの数多くの抵抗運動の背景には、各国家内の少数民族の民族的権利を求める闘いが存在することを見落とさないようにしたい。
    →マリ「独立」後、昨年までに至るトゥアレグのフランス及び中央権力に対する叛乱の歴史の概略についてはこちらを参照していただきたい。

    ⇒「マリを「第二のソマリア」にしてはならない ~フランスの軍事介入が失敗に終わる理由」につづく
    ・・・
    仏軍、マリ北部を空爆 イスラム勢力は逃走 (AFP 1/14)
    「・・・フランスは介入3日目となる13日、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系の武装勢力のガオの拠点を空爆。キガリでは反政府勢力が弾薬や燃料を貯蔵していた場所を攻撃した。
     空爆にはラファール(Rafale)戦闘機、ミラージュ(Mirage)戦闘機、ガゼル(Gazelle)ヘリコプターが使用された。教師だというガオの住民は、空爆で拠点を破壊された武装勢力は1人残さずガオから逃走したと話した。
     10か月前からイスラム過激派の苛烈な支配下にある北部の砂漠都市トンブクトゥ(Timbuktu)では、住民の間で仏軍戦闘機の到来を心待ちにする声が聞かれた。 国連安全保障理事会(UN Security Council)はフランスの要請を受けて14日にマリ情勢について協議する・・・」

    安保理がマリ情勢協議 各国、仏空爆に理解
     国連安全保障理事会は14日、西アフリカ・マリのイスラム過激派に対するフランス軍の空爆や、過激派とマリ軍の戦闘について非公開協議を開いた。フランスのアロー国連大使は協議後、記者団に「安保理の全メンバーがフランスの(空爆の)決断に支持や理解を表明した」と述べた。  マリ情勢に関する安保理協議は空爆後初めてで、フランスが開催を要請した。アロー氏は「われわれ(フランス)が合法的に国連憲章に基づき、マリ当局の要請を受け行動していると安保理全メンバーが認めた」と述べた。

     安保理は昨年12月、マリ周辺国で構成するアフリカ国際マリ支援部隊(AFISMA)の軍事介入を認める決議を採択した。国連憲章51条は、安保理による措置の前に各国が集団的自衛権を行使することを認めている。 アロー氏は、AFISMA派遣決議を早く履行することが必要とも述べ、フランスによる軍事行動から安保理決議に基づく措置への早期移行を求める姿勢を示した。 マリではイスラム過激派などが昨年3月のクーデターをきっかけに北部を掌握し、数日前から暫定政府支配地域に南下。マリ軍との戦闘が激化した。(ニューヨーク=共同)
     ↓
     国際法上の問題で言えば、今回のフランスによる軍事介入が、いかなる国際法上の主体から承認され、フランスが「授権」したのか?という根本的な問題がある。 もっとわかり易く言えば、国連安保理はいつ、どの会合で、フランスに対し軍事介入を許可したのか、という問題である。

     上の記事にもあるように、昨12月のマリをめぐる国連安保理決議は、(それ自体非常に問題なのだが)「アフリカ国際マリ支援部隊(AFISMA)の軍事介入を認める決議」だったのであって、これに先立ちフランスが単独軍事介入し、米英がそれに続くことを承認したものではない。
     こんなことが許されるなら、安保理が地域機構による「軍事介入」を承認しさえすれば、それがフランス・米国・英国であれ中国・ロシアであれ、常任理事国による単独の軍事介入が国際法上認められることになってしまうではないか。

     安保理常任理事国は、安保理の決議内容と、安保理としての意思決定における手続き的民主主義を厳格に遵守すべきである。今回のオランデ社会党政権の行動は、安保理構成国がどれ一つとしてフランスを批判しない/できないだけの話であって、明らかに安保理決議と「国連民主主義」に違反した暴挙だと言うべきである。

     これについては、〈対テロ戦争と「保護する責任」の安保理的規範化を通じた、米英仏そして中ロによる世界人権宣言」の死文化と、国連憲章第六章および七章の空洞化・形骸化〉の問題として私はすでに論じているので、関心のある人は『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』および『脱「国際協力』にある拙文を参照していただきたい。
     早い話、「国際の平和と安全/安定」を「維持」すべき安保理常任理事・核軍事五大国が、対テロ戦争の名の下に「国際の平和と安全/安定」を撹乱、破壊し、その結果「不安定」地域、「破綻国家」なった地域、諸国を自国の武器生産と軍事援助のはけ口とし、現代版覇権争奪戦を展開しているのである。無茶苦茶だ。

    フランスによるマリ軍事介入を支援=米国防長官
    「・・・パネッタ米国防長官は14日、フランス軍によるアフリカ西部マリでの空爆作戦は国際テロ組織アルカイダによる拠点確立阻止という、より重要な目標にとって決定的に重要との認識を明らかにし、それはひいてはアルカイダによる欧州ないし米国攻撃を防止する一助になると述べた・・・。
    ・・・米国防総省高官によれば、米国はフランスとの軍事情報共有化を開始した。またフランス軍戦闘機によるマリでの活動を支援するため、フランス政府からの追加的な情報やロジスティクス(兵站)上の支援要請の受け入れを検討中・・・。
    ・・・パネッタ長官は・・・フランス軍が攻撃の標的にしている「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」は米国とその同盟国を攻撃できることを長期目標としていると指摘した・・・。
     
     「アルカイダには米国ないし欧州で攻撃する当面の計画はないかもしれないが、究極的にはそれが彼らの目標だ。アルカイダが作戦の拠点を確立する際はいつでも懸念している」「それが、AQIMがこのような影響力を持たないようにするため、われわれがいま行動しなければならない理由だ」。
    ・・・フランス支援には物資の空輸、ロジスティックス上の援助、そして情報上の支援が含まれる・・・。他の当局者によれば、米国は追加的な人工衛星情報の提供や、無人偵察機の提供の可能性を検討している・・・。
    ・・・長期的には、米国とその同盟国はアフリカ諸国が軍事力を強化し、自前で自国の安全保障を確保できるよう手助けしたいと希望している。しかしパネッタ長官は、フランスの軍事介入を称賛し、マリ北部の武装勢力が支配地域を拡大し始めた時からそうした介入が必須になったと強調した・・・。
    ・・・マリ北部でのAQIM根拠地の確立が可能になったのは、リビアのカダフィ政権崩壊も一因だ。カダフィ政権崩壊の結果、武器が流出し、武装勢力がリビアからマリに流出した」(WSJ)

    ・・・
    宮崎で日米共同訓練 岩国のFA18参加
     在日米軍再編の戦闘機訓練移転に伴う日米共同訓練が14日、宮崎県新富町の航空自衛隊新田原基地で始まった。同基地での実施は2009年2月以来5回目。  九州防衛局によると、米軍岩国基地(山口県)に所属するFA18戦闘機6機と、パイロットや整備士など計約90人が参加。空自側からは新田原基地所属のF4戦闘機が参加し、四国沖の空域で、4対4などの戦闘訓練を18日まで行う。
     参加した海兵隊のピーター・マッカードル中佐は訓練について「日米の技量を上げ、相互理解の向上を図るのが目的」(??)と説明。「特定の地域や事態を想定したものではない」と話した。(共同)

    2013年1月12日土曜日

    2013年の「保護する責任」? ~フランスがマリに軍事介入

    2013年の「保護する責任」? ~フランスがマリに軍事介入

     マリ(西アフリカ)で非常事態宣言が発令され、フランス(オランド社会党政権)が軍事介入した。部の報道(日経)では、フランスはすでに空爆を開始したとも伝えられている。
     マリの「旧宗主国」フランスによる旧植民地に対する軍事介入を主要メディアがどのように報じているか。まずそこから確認していこう。
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    マリが全土に非常事態宣言 フランスは軍を派遣 (CNN)
     西アフリカ・マリのトラオレ暫定大統領は11日、同国北部を支配するイスラム武装勢力の脅威に対し、テレビを通して非常事態宣言を出した。これに先立ち、旧宗主国のフランスは同国への軍派遣を発表した。
     フランスのオランド大統領は、マリが北部で「テロリスト」の攻撃にさらされ、国家の存続と国民や同国に滞在する仏国民らの安全が脅かされていると述べた。軍事作戦は「必要な限り続ける」としている。同時に、国連との協議に基づく国際法の枠内での介入だと強調した。

     部隊の規模は公表されていないが、ファビウス仏外相によると作戦には空爆も含まれる。トラオレ大統領も非常事態宣言の発令に際し、フランス軍から空爆を含む支援を受けることを認めた。
     フランスはこれまでアフリカ介入を縮小する方針を示し、マリへの直接介入も否定してきた。今回部隊の派遣に踏み切ったのは、マリ情勢に対する重大な懸念の表れとみられる。
     マリでは昨年3月のクーデター後、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装勢力が北部を制圧。イスラム法による厳格な支配体制を敷き、国際社会から批判を浴びている。国連安全保障理事会は昨年12月、マリの治安回復に向け、周辺諸国主導の支援部隊による1年間の作戦を認める決定を下した。

    仏、西アフリカのマリに軍事介入  イスラム過激派との対立激化 (日経 一部抜粋)
    「・・・暫定大統領は軍事介入を受けて記者会見し、マリ全土に非常事態宣言を発令した上で「イスラム過激派に大規模で容赦ない反撃を加える」と語った。暫定大統領は10日、イスラム過激派が、政府の拠点がある同国南部に侵攻するのを食い止めるため、仏政府に軍事支援を要請していた。
     マリ情勢を巡っては、昨年3月にバマコで正規軍の待遇などに不満を持つ兵士が政府転覆を狙ったクーデターを画策。当時の暫定首相を拘束して政府機能がまひした。
     この混乱に乗じて国際テロ組織「アルカイダ」と関連のあるイスラム過激派が北部地域を掌握した経緯がある。事態の悪化を受け、国連安全保障理事会では昨年12月20日、イスラム過激派に対する軍事介入を認める決議を全会一致で採択していた。

     オランド大統領の発表を受け、ナイジェリアなど15カ国で構成する西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は「国連決議に基づく軍隊の派遣を承認した」との声明を公表。ロイター通信によると、マリ国防省報道官はフランスのほか、ナイジェリアとセネガルが軍事介入に加わると説明したが、仏側は「現時点で仏単独でマリ部隊を支援している」(ファビウス外相)という。
     仏政府はマリをイスラム過激派が掌握し、国際テロ組織の拠点になれば、ただでさえ不安定な北・西アフリカ諸国の政情が一段と悪化しかねないと判断。同地域からは原油や鉱物資源も調達しており、歴史的、経済的に結びつきの深い地域情勢の安定を目指す。
     ヘイグ英外相は11日、「フランスの決定を支持する」と表明。ウェスターウェレ独外相は「軍事面だけではなく、政治的な解決を図るべきだ」と述べた。

    マリ 旧仏植民地で9割がイスラム教徒
     アフリカ西部に位置する内陸国で、面積は124万平方キロメートルで日本の3倍強。人口は約1550万人で9割をイスラム教徒が占める。フランスの植民地だったが1960年に独立した。公用語はフランス語。在留仏人は約6000人とされる。国内経済は農業が主力で、鉱物資源も豊富。1人当たり国内総生産(GDP)は1000ドル(約8万9千円)前後と貧しい。

    1/13
    Britain to send aircraft to Mali to assist French fight against rebels Guardian 1/13
    "...Britain announced on Saturday night that it was deploying aircraft to assist French military operations against Islamist rebels in Mali as an escalation in hostilities was claimed to have killed more than 120 people. David Cameron's offer to transport foreign troops and equipment involved Britain in a fresh conflict that could provoke terrorist reprisals against European targets. President François Hollande yesterday placed France on high alert as French planes bombarded targets in Mali..."

    Mali intervention will put French citizens at risk: Islamists
    ..."There are consequences, not only for French hostages, but also for all French citizens wherever they find themselves in the Muslim world," Sanda Ould Boumama told Reuters. "We are going to continue resisting and defend ourselves. We are ready to die fighting."...

    過激派ら100人超死亡 仏軍空爆のマリ中部
     【ナイロビ共同】西アフリカのマリ中部で11~12日にフランス軍が実施した空爆やイスラム過激派とマリ軍との戦闘で、過激派やマリ軍兵士を含む100人以上が死亡した。ロイター通信が12日、マリ軍当局者や目撃者の話として伝えた。
     地域機構の西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は12日、マリに対する即時の部隊派遣を許可した。ECOWASは兵力3300人の部隊派遣計画を昨年まとめており、ニジェールなどが12日、派兵を表明した。 マリ北部を掌握するイスラム過激派は、数日前から暫定政府の支配地域に南下し、マリ軍との戦闘が激化。

    マリ軍事介入で武装勢力阻止=テロ警戒強化も-仏大統領(パリ時事)
      フランスのオランド大統領は12日、仏軍部隊がアフリカ西部マリの政府軍支援のため軍事作戦に着手したことを受けてテレビ演説し、仏部隊の介入がマリ北部からのイスラム武装勢力の進撃を「食い止めるのに役立った」と成果を強調した。 オランド大統領は演説で、仏軍介入は「テロとの戦いが唯一の目的だ」と言明。
     「フランスは友好国の安全以外の権益を守るつもりはない。だからこそ(軍事介入は)全世界から支持され、全アフリカ諸国から歓迎されている」と正当性を訴えた。
     その上で大統領は、マリへの軍事介入や、ソマリアで12日行われた仏情報機関要員救出作戦を受けてイスラム過激派のフランスに対する反発が強まると想定し、テロ警戒を強化すると表明した。公共の建物や交通機関での警戒度を高めるという。
     
    仏軍、工作員の救出失敗 ソマリア南部で
     フランス軍は12日未明、ソマリア南部でイスラム過激派組織アルシャバーブに拘束されていたフランス人男性工作員の救出作戦に失敗した。ルドリアン国防相は同日、戦闘で軍兵士1人が死亡したと明らかにした。工作員も殺害されたとみられるとしている。ロイター通信などが伝えた。
     国防相によると、軍兵士1人が新たにアルシャバーブに拘束された。一方、アルシャバーブは、工作員は生存しており、作戦現場とは別の場所に拘束されているとインターネットで発表した。
     フランス軍は救出作戦にヘリコプターを出動。同国国防省はアルシャバーブのメンバー17人を殺害したとしている。工作員は2009年7月、ソマリア軍の訓練のため滞在していた首都モガディシオのホテルから誘拐された。(ナイロビ=共同) 
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    「批評する工房のパレット」内の関連ページ

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    安保理、マリへの「軍事介入」承認 武装勢力一掃目指す      アフリカ西部のマリ
     アフリカ西部マリの北部地域が武装勢力に制圧され、無政府状態となっていることを受け、国連安全保障理事会は20日、周辺国の部隊派遣を認める決議案を全会一致で採択した。武装勢力の一掃を目指す。
     決議は、マリの旧宗主国のフランスが案をつくり、採択まで議論を主導した。軍事力による強制措置を定めた国連憲章第7章下の行動だと明記したうえで、「マリの治安、安定を保障するため、全土にわたってマリ軍を配置することが重要だ」と強調。国連加盟国や国際組織に、マリ軍兵士の訓練などを求めている。「軍事介入」は来年9月以降の見通しだ。
     また、ナイジェリアやニジェールなど周辺国の部隊で構成するアフリカ国際マリ支援部隊(AFISMA)に対し、今後1年、マリ国内での展開を許可。マリ全土の主権・領土回復に向け、軍事力行使も含む「全ての必要な措置」を国際人道法・人権法に従って講じることを認めた。ロイター通信などによるとAFISMAには計3300人が加わる見通しだ。 (朝日 ニューヨーク=春日芳晃、ナイロビ=杉山正 2012, 12/20)

    西アフリカのマリ、反政府勢力MNLAが北部独立を宣言(AFP  2012, 4/6)
    「・・・西アフリカ・マリで6日、同国北部を掌握したトゥアレグ(Tuareg)人反政府勢力「アザワド解放民族運動(National Movement for the Liberation of Azawad、MNLA)」が北部の独立を宣言した。西アフリカ随一の民主国家とうたわれた同国だが、先月22日に起きたクーデター以降、深刻な人道問題が懸念されている。
     MNLAは6日午前、数十年にわたり反政府闘争を続けてきた同グループが「アザワド(Azawad)」と呼ぶマリ北部の独立を宣言。MNLAの報道官は仏ニュース専門テレビ局「フランス24(Francem
    24)」に「我々は本日をもってアザワドの独立を宣言する」と述べて、同団体のウェブサイトに掲載された声明を事実と認めた。また、同報道官はMNLAは周辺国との国境を尊重し、すべての軍事行動を停止すると語った。
     クーデターの発生から2週間が経過したマリは現在、反乱軍が支配する南部と反政府勢力が支配する北部とに分断されており、各国は対応策の模索に追われている・・・」

    National Movement for the Liberation of Azawad、MNLA

    「批評する工房のパレット」推奨サイト
    temoust (voice of tuareg)
    Tuareg Culture and News--In Support of the Tuareg People
    tuaregs 
    Mali and the Tuareg Human Wrongs Watch
    tuareg tribe YouTube

    2013年1月11日金曜日

    国民投票制度の導入と住民投票制度の拡充の議論の深化のために

     
    国民投票制度の導入と住民投票制度の拡充の議論の深化のために

     安倍内閣の元で、改憲→国民投票制度の導入に向けた議論が一気に加速化する可能性がある。
     私は、改憲の最大の抵抗勢力、つまり日本の最強の「護憲勢力」とは実は官僚機構だと考えている。改憲は、改正/改悪された、あるいは新たに憲法に追加される諸条文・条項と既存の下位の国内法体系との整合化作業を必然的に伴うものとなり、それには官僚機構による莫大な作業を必要とする。だから日本の官僚は、憲法そのものは改変せずに、一般法や関係諸法、特別立法、省令や政令などの制定によって、いわゆる「解釈改憲」=実質的改憲を行ってきたのである。

     その意味で、すでにその兆候が明確になりつつあるが、安倍内閣も再び日本の官僚機構に取り込まれ、官僚の手のひらに乗ることが必然的だと私は考えている。

     しかし、そのことは改憲が不可能、あるいは遠い未来の話になる、ということではない。
     自公政権が来年の参議院選においても大勝し、長期安定政権になりうる可能的根拠を示し、さらに世論の絶対的多数派が改憲に傾斜してゆくならば、官僚機構も改憲に向けた調整活動に具体的にはいってゆくだろう。(ただしその場合でも、今後二年や三年で改憲手続きが進展し、改憲が実現されるかのように扇動したり、あるいはその逆に危機意識を煽ることも間違っていると私は考えているが。)

     重要なのは、改憲議論の内容とその動向を安倍内閣によってリード、支配されないこと、「市民」サイドからリードし、内閣や既成政党の改憲論議を逆規定できるような議論を深めること、ではないか。
     言うまでもなく、このような主張に対しては「護憲派」の政党や市民運動派の人々から相当の批判が向けられるだろう。 しかし、現状から言えば、単なる「改憲反対」をこれまで通りに繰り返すのは、むしろ最も非生産的な行為であり、未来に禍根を残すことになりはしないか。私たちは遅かれ早かれ、「どのような憲法を私たちが望むのか」という議論に移行せざるえない状況の中に、すでに置かれていると考えるからである。
     もっと言えば、護憲論議を「市民/住民主権」に定位した改憲論議と格闘させることが問われている。そのためには、改憲論議を閉じてしまうのではなく、開放/解放することが重要である。

     そうした議論を深める一助になることを願い、以下、『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』の「あとがき」より転載したい。
     私はこの文章を「安保条約の期限化を問う国民投票制の導入」との関係で書いたが、原発の廃炉→廃止など、あらゆる国策に対する市民/住民の意思決定権の行使の文脈に照らして読んでいただきたい。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     本書に収め切れず、幻となった二つの章がある。
     一つは、外交・安保を「国家の専権事項」とする主張を問うもの、もう一つは、「国政の主権者」の総意思を外交・安保における国家の意思とする「戦略」を考えようとするものである。
     これら二つの章を六章と終章との間に挿入する計画であったが、本書とは別に独立した形で読者に問う方が、本書の構成にとっても好ましいと考え直した。最後に、収録できなかったこの二つの章の問題意識を披瀝しておきたい。

     日本国憲法は、外交に関して内閣が強大な権力を行使する余地を残している。安保条約は国会で「承認」され批准されたが、内閣は条約の調印にあたり、事前の国会承認はもちろん、審議することさえ義務づけられてはいない。官僚サイドから言えば、これは憲法第七三条二項が規定する「内閣の事務」の中の「外交関係を処理すること」の範疇で処理されることになる。

     また、内閣総理大臣は、「外交関係について国会に報告」することを「職務」とするが(憲法第七二条)、事前にその概要を国会に報告しなければならない、という規定はない。
     つまり、「日米同盟」なるものを政権が変わるたびに日本政府が宣言し、準条約的な法的性格を持つ「日米共同声明」を連発できるのも、この第七二条にある内閣総理大臣の「職務」規定に基づいた行為の一つ、とみなせることになる。

     「一見、きわめて明白」な憲法違反が確認できないかぎり(それを解釈するのも官僚だが)、この国の内閣および内閣総理大臣(内閣付きの官僚たち)は、私たちの生活を根本から変えうる外国との条約や協定をフリーハンドで結び、さらにそれら条約や協定の実質的改定となる首脳間の「共同声明」を意のままに発することができるわけである。

     一般に、外交や安全保障で「国家の専権事項」と言うときには、この「フリーハンド」をさしている。
    そしてこの「フリーハンド」は、政治家や官僚が「国政の主権者」の意思を顧みず、独断専行的な政策で居直るときに用いられる。新旧安保条約の調印、一九七〇年六月以降の安保の永続的「自動延長」はその典型だ。最近で言えば、普天間問題に関する民主党政権の閣議決定や「日米合意」などもそれに含まれるだろう。

     しかし、これには重大かつ深刻な問題がある。
     その一つは、ただの市民/住民にとっては政府や官僚の横暴としか映らないそうした独断専行的な政策決定が、はたして日本国憲法の規定に従った行為と言えるのかどうか、もう一つは、市民/住民生活の根幹に関わる事柄が、当事者としての当該市民/住民の意思をバイパスし、日本政府と外国政府の「合意」のみによって決定されてしまってもよいのかどうか、という問題である。

     前者は、「内閣の事務」や「内閣総理大臣の職務」をめぐる憲法解釈、あるいは「三権分立」や「議院内閣制」など日本の「国のかたち」のあり方の根幹に関わる事柄であり、後者は、市民/住民主権の法的根拠の拡充、言葉を換えるなら、憲法が定める間接(代表)民主制の限界を乗り越える(あるいは補完する)直接民主制の諸制度の導入に関わる事柄である。

     前者の問題を考究するにあたっては、日本国憲法は外交や安全保障が「国家の専権事項」であるとは何も言明していない事実を立脚点として、政府による憲法の拡大解釈を批判するという視点が重要である。
     政治家や官僚は憲法が明文的に否認していないことをもって「憲法上許される」と強弁し、憲法解釈の国家権力を行使するが、そうした解釈の余地を憲法が残していることと、それをもって「国政の主権者」の意思に反した権力の濫用や横暴を合憲化することは、まったく次元の異なる問題である。

     この認識を共有できるなら、議論はさらに「内閣の意思決定過程の透明性をいかにすれば実現できるか」という問題にも発展するだろう。そのためには有名無実化している内閣に対する国会のチェック機能の確立や情報公開制度のさらなる拡充などをめぐる議論も欠かせない。

     しかし、詰まるところ議論は、「国政の主権者」の意思が、政策という形で押し出されてくる国家の意思を逆規定し、場合によってはその変更をも強制できるような「仕組み」はいかにすれば作れるか、ここに行く着くことになる。内閣の意思決定過程に対する「国政の主権者」の直接介入の「仕組み」。これが右に述べた、後者の「事柄」である。

     あらゆる政治の意思の源泉は「国政の主権者」の総意思にある。間接(代表)民主制の原理を基礎とする憲法理念から言えば、安保の再期限化の議論のイニシアティブは議会政党がとるべきである。日本国憲法は、その前文において、
    「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し… ここに主権が国民に存することを宣言」し、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と定めている。
     

     しかし現状では、既成政党にそのイニシアティブを期待することには無理がある。社共以外のすべての政党が日米同盟・安保堅持を掲げており、その社共両党にしても、安保の期限化をマニフェストに掲げ「国民運動」を組織するような気配は今のところ見られないからである。

     この現状を打開するためには、二つのアプローチが考えられる。
     一つは、間接民主制(代議制民主主義)の論理に従い、既成政党に対してあくまで安保政策の見直しを求め続けるという形で、既成政党への関与を強めることである。どの政党(党員・支持者)も、在日米軍の駐留が無期限に続くことを容認することはないだろう。
     とすれば、政党の責任問題として、安保と米軍駐留の期限化をいずれは論じなければならなくなる。そのプロセスを促進するために既成政党の内外から関与を強める、というのがこのアプローチである。

     もう一つは、主権者の意思を必ずしも反映しない間接民主制の限界を、直接民主制の導入によって乗り越えることである。「安保を国民投票にかけよ」という議論はこのアプローチに基づくものだが、これは古く「六〇年安保」の時代から憲法学者や国会議員らによって幾度となく唱導されてきた主張である。

     たとえば、岸内閣が改定安保条約を強行採決するほぼ一カ月前、一九六〇年五月一七日の「安保国会」において、椎熊三郎(自民党)は「学識経験のあるりっぱな方々の意見を案件判断の参考」(椎熊)とすべく、その前々日に大阪で行われた公聴会で当時の立命館大学総長、末川博が述べた次のような見解を紹介している。
    「安保改定は国の運命を決する大問題であるから慎重に審議を尽くし、場合によっては国会を解散し、または国民投票をして国民の総意を問うべきである」。

     あるいは、一九六八年八月の参院外務委員会において、森元治郎(社会党)は次のように述べ、佐藤内閣に議論を仕掛けている。
    「衆議院、参議院の国会の選挙を通じて、安保条約に対して国民はわが自民党を支持しているなどと佐藤.栄作.さんはよく言うけれども、これは雲をつかむような話です。
     そうではなくて、具体的に一つの案件を取り上げて、そして国民の一人一人が、外交問題でもあるいは財政問題でもいい、それに国民の意思を投じて、国政に直接参加する道という意味で国民投票制度というのがあればいい」。

     注目すべきは、この森の質疑に対し答弁した、三木武夫(外務大臣・当時)の発言である。
    「このレフェレンダム.国民投票.の制度は憲法改正を伴います。したがってやはりこれは、各国が
    国民投票によってその国民の意思を聞くという制度は、民主政治のもとにおいては国民の端的な意思を聞く制度としては、非常によりよく国民の意思を聞き得る、早く短期間に正確に聞けるということで非常に検討に値する制度だと思いますけれども、憲法改正を伴いますので、これはどうでしょう与野党なんかで一緒に検討してみるのは。」

     外務大臣、しかも首相経験者がこのような発言をしたにもかかわらず、政府・自民党は安保の国民投票をまともに検討したことがない。三木発言から丸四二年を経てもなお、この実施の可能性が「与野党なんかで一緒に検討」されたことは一度もない。その責任は自民党や旧社会党のみならず、議会政党のすべてが負っているのである。

     安保の国民投票は、「一時停止」状態にある改憲手続きを促進するという、「寝た子を起こす」一面があることは否定できない。そしてそのことが議論の活性化を阻む要因にもなっている。
     その意味で安保の国民投票は慎重かつ真剣に検討されるべきだが、それでも私は「国政の重要課題」に関する国民投票は、「諮問」的なものであれ、積極的に検討され、実施されるべきだと考えている。
     なぜなら、主権者の総意が政党政治に反映されず、安保の無期限状態に関する主権者の意思が一度も問われないという状況が構造化されている現状にあっては、間接民主制の限界を補う諸制度(それには既存の住民投票制度の制度改革も含まれる)を導入する以外に方法はないからだ。

     安保の国民投票の実施は、なぜそれを問うのかという議論と不可分一体のものであって、そうした議論を広く行うプロセスそのものが、国民投票を凍結状態にしておくよりも、はるかに政治的な意義を有したものになる、と私は考えている。
     憲法体系における間接民主制と直接民主制の緊張関係を踏まえながらも、五五年体制が構造的にはらんでいた矛盾と問題を未だに引きずっている政党政治の状況から言えば、国民投票制の導入や既存の住民投票制の制度改革の推進等による政治的意思決定システムの拡大は、日本の民主政の形成のために、もはや避けられない課題になっている。

     他のあらゆる政治的・社会的問題の解決と同様、日米同盟を再考し、安保にいつか期限をつけるという課題についても、この「民主政の形成とその深化をいかに実現するか」という観点に即し、もっと広く議論されてしかるべきである。
     「日米安保五〇年」に際し、日米同盟と日米安保を根本から問い直す議論の素材の一つとして本書が活用されることがあるとすれば、著者としてこれにまさる喜びはない。読者の忌憚なき批判を仰ぎたい。

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     『日米同盟という欺瞞、日米安保という虚構』(新評論、中野憲志著)、「あとがき」より。

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    社説:視点…憲法96条見直し 「国民投票主義」の覚悟は(毎日 1/11)
    「・・・自民党の改正案は国会提案に必要な各院の賛成を「総議員の過半数」に引き下げるものだ。同条項改正には日本維新の会も賛成している。国民理解が比較的得られそうな点も首相が優先する背景にはあるのだろう。
     自民案で96条改正が実現すれば改憲のハードルは確かに下がる。だが、国民投票で賛成が必要な事情は変わらない。厳密には「国民投票を実施するハードル」が下がるのである。
     たとえば、ある政権の与党が重視する課題を憲法に盛り込みたい場合、国会の通常の法律制定と同じ程度の「数」さえあれば、国民投票に持ち込める・・・。
     ・・・改憲に国民投票を必須とし、かつ提案のハードルも低くするという自民案はある意味でユニークだ。
     そう考えると、96条問題の本質は「国のかたちをどこまで直接民主制的に決めていくか」の議論ではないか。今後、いずれかの形で国民投票的手法が政治に浸透する流れは避けられないだろう。一方で、普段は自治体の住民投票ひとつにも目くじらをたてているような多くの国会議員に本当にその覚悟があるのかな、とも思う」

    「維新もみんなも改憲勢力」 福島・社民党首(朝日 1/10)
    「日本維新の会もみんなの党も、憲法改正の発議の要件を3分の2から過半数にすることに賛成している。安倍晋三首相は憲法改正のための勢力拡大を明確に図っている。参院選で非自民の維新とみんなが躍進したと思っていると、(結果と して)改憲勢力が増えたということもありうる。社民党は、自民党と維新・みんなが憲法改正で手をつながないよう「それは問題だ」ということを言っていきたい・・・」

    「批評する工房のパレット」内の関連ページ
    原発再稼動の是非は広域的住民投票によって決めよう! (2011, 10/10)
    原発再稼動の広域的住民投票を考える前に、考えなければならないこと (2011, 10/13)

    『福島と生きる』メールマガジン第3号――息長く〈福島〉とつながり続けるために――

    『福島と生きる』メールマガジン第3号
    ――息長く〈福島〉とつながり続けるために――

    2013年1月11日発行(不定期刊)

    ー目次―
    ◆イベント情報
    ◆ニュースクリップ
    ◆『福島と生きる』レビュー紹介

    -・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
    ◆イベント情報(イベント情報は変更されることもあります。必ず主催者サイトでご確認下さい)

    1. 1月16日(水)13:00~17:00(予定)(参議院議員会館B107)
      「原子力災害対策指針(防災指針)に関する規制庁交渉
      ※原子力規制委員会は、福島事故の避難政策の検証もなく、避難基準を年20mSvとし、防災範囲を30kmに限定しようとしています。これを年明け早々に決め、原発立地周辺の自治体に防災計画の策定を急がせている状況です。この撤回を求める政府交渉です。
      ※主催:FoE Japanほか 詳細→イベントサイト http://www.foejapan.org/energy/evt/130116.html

    2.1月20日(日)13:30-17:00(東京・立教大学池袋キャンパス マキムホール(15号館)M202教室)
      「公開討論会 原発事故・放射能汚染と農業・農村の復興の道
      ※『福島と生きる』共著者の一人、菅野正寿さん(福島県有機農業ネットワーク)のほか、小出裕章さんも登場。
      ※主催:日本有機農業技術会議
      詳細→イベントサイト  http://www.commonsonline.co.jp/column-event.html

    3.1月21日(月)18:30-21:00(東京・四谷地域センター)
      「原発事故子ども・被災者支援に必要な施策を考える
      ※FoE Japanの渡辺瑛莉さんがパネリストの一人として参加。
      ※主催:ソーシャル・ジャスティス基金
      詳細→イベントサイト  http://www.foejapan.org/energy/evt/130121.html

    4.2月1日(金)19:00~21:00
      「作家・柳美里X南相馬ひばりFM・今野聡――小さなラジオ局の伝える小さな声
      ※主催:JVC  詳細→イベントサイト
     http://www.ngo-jvc.net/jp/event/event2013/02/20130201-minamisouma.html#more

    5.2月3日(日)ー7日(木)(郡山・福島・会津若松・いわき・田村)
      「李政美(い・じょんみ)福島コンサートツアー
      ※「原発いらない福島の女たち」が受け入れの中心です。
      詳細→李政美さんの公式ウェブサイトでご確認ください。(近日中に掲載予定)

    ◆イベント追加情報(1/12)

    1.  1月 21日 (月)(米沢市)
      「健康相談会
      ※橋本俊彦(鍼灸師・快医学)さん、小林恒司(心療内科医師)による健康相談会。詳しい時間と場所は未定。
      ※主催:NPO法人ライフケア   詳細→NPO法人ライフケア・スケジュールサイト 

    2. 1月22日 (火) 15:00―(須賀川市・自然食レストラン「銀河のほとり」)
      「健康相談会
      ※橋本俊彦(鍼灸師・快医学)さん、小林恒司(心療内科医師)による健康相談会。
      ※主催:NPO法人ライフケア   詳細→NPO法人ライフケア・スケジュールサイト 

    3.1月22日(火)11:30-13:30(東京・参議院議員会館101会議室)
      「原発事故子ども・被災者支援法に基づく施策の早期実現を求める院内集会
      ※支援法ネットワークからの問題提起、被害者・被災自治体・支援者等からの要望を国会議員に伝えます。
      ※主催:原発事故子ども・被災者支援法ネットワーク  詳細→イベントサイト 

    4.1月25日(土)-26日(日)(静岡県島田市)
      「放射線からいのちを守るセルフケア 2日 快医学講座
      ※ 講師:橋本俊彦(NPO法人ライフケア代表)
      詳細→NPO法人ライフケア・スケジュールサイト 

    5.1月26日(日)16:00-20:40(福島市・フォーラム福島)
      「イメージ. フクシマ IN福島 『フタバから遠く離れて』上映会
      ※16:00〜17:40 リバイバル上映『百万人の大合唱』
       18:00〜19:36 『フタバから遠く離れて』
       19:40〜20:40 ゲストトーク:舩橋淳監督×井戸川克隆町長
      ※主催:イメージ福島  詳細→イベントサイト 

    6.1月31日(木)13:30-17:00(京都市・東本願寺視聴覚ホール)
      「真宗大谷派 第6回 原子力問題に関する公開研修会――いのちのつながりの回復をねがって」(誰でも参加できます)
      ※講演と発題・対談
      ※主催:真宗大谷派(東本願寺)解放運動推進本部  詳細→http://2011shinsai.info/node/3401

    ◆ニュースクリップ
    1.大熊町民「納得いかない」 若松で環境省、中間貯蔵施設現地調査へ説明会  福島民報、2013年 1月9日
     中間貯蔵施設の建設候補地での現地調査に向けた環境省の説明会が8日、大熊町の該当行政区の住民を対象に会津若松市で開かれ、町民からは「納得いく説明ではなかった」と不満の声が相次いだ。 (略)
     「適さなかったら町外に候補地を移すのか」「われわれが同意しなければ建設しないのか」などの住民の質問に対し、環境省の藤塚哲朗中間貯蔵施設チーム長は「まずは調査をさせてほしい」と述べるにとどまった。
     住民からは補償や最終処分場の見通しを先に示すべきとの指摘も。これに対し、「何とか除染を進めたいとの思いがあり、お願いするしかない。一刻も早く青写真を示したく、全ては調査を終えてから」と理解を求めた。
     30年以内の県外での最終処分については「減容化などの技術進展によるところが大きく、研究開発に力を尽くしたい」と述べた。 町内でコメと野菜の有機栽培を行っていた渡部隆繁さん(63)は「具体的な住所や代替地などの話があると思ったが、全くなかった」と憤った。 自宅が搬入路の288号国道沿いという鈴木八洲男さん(65)は「いつ帰れるのか知りたかったが、答えはなかった。この手の説明会はいつも知りたいことを説明してもらえない」と話した。 (後略)

    2.先行除染も手抜き 福島第一原発周辺の作業員証言  朝日新聞、2013年1月7日
     東京電力福島第一原発周辺の除染現場で働く作業員の交流会が6日、福島県郡山市であった。複数の参加者が朝日新聞の取材に対して、建物や道路から20メートル内の本格除染に先駆けて作業拠点となる役場などで実施した先行除染でも、回収しなければならない枝葉や水を捨てる「手抜き除染」をしていたと証言した。
     楢葉町で昨夏、先行除染をした作業員は「1次下請けの監督から『まじめにやってくれているのはいいけど、向こうに捨ててもいいんじゃないの』と言われ、枝葉を川に捨てた」と証言。葛尾村で先行除染をした作業員は「7月ごろ建物を洗浄した水をそのまま流していた。環境省の職員が来る日だけやらないように指示された」と語った。
     交流会は労働組合や弁護士らでつくる支援団体「被ばく労働を考えるネットワーク」などが主催。約20人の作業員が参加し、特殊勤務手当(危険手当)が適正に支給されていないことについて環境省に改善を求める方針を決めた。

    3.被災者に目を向けず 議場目の前 代表団、仮設住宅素通り  東京新聞、2012年12月18日
     政府と国際原子力機関(IAEA)が開いた福島閣僚会議では、原発の過酷事故を防ぐための技術的、制度的な議論が繰り広げられた。だが原発事故の被災地・福島での国際会議にもかかわらず、十六万人の住民避難が続く「福島の今」に目を向けた議論は乏しかった。
     政府は会議に先立ち、各国代表団向けに東京電力福島第一原発や除染現場の視察ツアーを組むなど、収束作業の進展をアピールした。こうした取り組みは代表団からも「政府、東電の透明性に感謝したい」(アイルランド閣僚)などと好評だった。

     しかし会場となったイベント施設の外に目を向ければ、道路を挟んだすぐ近くに、福島県川内村と富岡町の約六百人が暮らす仮設住宅がある。代表団を乗せた大型バスは毎日、仮設住宅の前を通り過ぎるだけだった。 糖尿病を患いながら避難生活を送る女性(79)は「世界中から大臣が来ているらしいけど、ここには誰も来ない」と話した。会議は原発推進を前提に進んだ。 (後略)

    ◆『福島と生きる』レビュー紹介
     Amazonに2本のレビューが載りました!お二人に感謝です!
    ① ‘市民派’で生きる! ( 2013/1/7)
    By ユウ
     本書は、震災後の福島において活動する草の根の市民活動家や著名な国際協力NGO(シャプラニール・JVC・FoE Japan)にスポットを当て、政府ではなくあくまで市民(住民)目線にこだわった形での‘復興’の現状と課題についてまとめてある。現地住民でもあり、草の根で活動している人々の声を収録していることもさることながら、日本国内で主に活動しているNPOではなく、あえて国際的な活動を本来の任務としている国際NGOにスポットを当て、これら国際的機関が果たすべき役割について検討している点が斬新で面白い。
     本書の後半に収録されているNGO共同討論の章は、実際に福島に関わり続けている上記NGOの関係者による対談が行われており、避難住民と受け入れ先住民との軋轢など現場の生の実態を多少なりとも知ることができる。

     勿論本書によって福島の実態すべてが把握できるわけではない。どの人もその全体像を完璧に把握することは不可能である。本書においてもシニカルな見方をすれば、熱心な一部の活動家の声の寄せ集めに過ぎず、またNGOについても各々の活動の報告と反省会にとどまり、‘対話’を避けているようにも見える。また本書が書店で置かれているコーナーに行けば、他にも一貫して科学的・経済的観点から、福島の復興や原発の是非を論じている著書が多数存在する。
     私は、それら書籍が各々の体験やまた様々な根拠に基づいて書かれている限りにおいて、それぞれ一定の現実を物語っているのだと思う。本書もそのうちの一つであるし、科学・経済的観点から述べた著書も同じく一つである。
     しかしながら客観的に見て、やはり多くの人々は科学・経済的観点を重視し、いつしかその当事者である被害者(この認識さえ一様ではない)の‘生の’声は、忘れ去られ捨象される傾向がある。現政権もいつしか原発再稼働に舵をきっている。その意味で、本書はそれら時代の趨勢に対するアンチテーゼとして、あくまで‘市民派’にこだわるその姿勢は一読に値するであろうし、また得るものもあると思われる。
     この書を是非、買おうと思わない・そもそも見向きもしない人にこそ読んでもらいたい。

    ②なぜ国際協力NGOが福島で活動したのか―「当事者」としての、挑戦の記録 (2012/12/30)
    By 西島香織
     この本の特徴は、国際NGOで福島に取り組む方と、福島出身で実際に活動をされている方々からの原稿を集約したものであるということ。誰かの作った「ストーリー」ではなく、現場の人の心を、限りなく近く感じることができます。 
     地域や考え方の「分断」を生み出した放射能汚染、避難生活に対して、いかなる決断をした人も安心して暮らすことのできるような支援は必要だ――多くの海外支援NGOが、初めて日本において活動を開始した根拠には、このような合意がありました。しかしその結論に至るまでに、様々な葛藤があったと書かれています。

     「分断」「支援」「復興」、これらとどのように、向き合えばよいのか。真剣に向き合ってきた市民活動家の記録が書かれています。
     支援としてだけではなく、自分自身の問題として、これまでの活動をある種、内省的に見つめなおすきっかけとなった福島。 当事者として、ふくしまとともに社会を考えることが必要だということを教えてくれる書籍です。 個人としての生き方と、社会に対して何をすべきかということ、この両方を、「福島とともに」という言葉にのせている、タイトルも素晴らしい。

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    『福島と生きる』メールマガジン第3号
    2013年1月11日日発行
    ※『福島と生きる』メールマガジンは、『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』の共同執筆者の団体や活動の関連情報を発信していきます。

    発行人=中野憲志・藤岡美恵子
    (『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』共編者)

    2013年1月9日水曜日

    日本の原子力計画の「軍事化」

    日本の原子力計画の「軍事化」

    Iran Japanese Radioが、イランの準「国営通信」といわれているファールス通信の記事、「天野IAEA事務局長が、日本の原子力計画の軍事化の可能性を懸念しない理由」を配信した。

    記事の主要な目的は、イランの核開発に対する国際的な包囲網と制裁強化の動きを牽制することにある。しかしここで、興味深いのは、エルバラダイから天野体制に移行して以降、イランに対するIAEAの姿勢が強硬姿勢に変化してきたこと、その一方で「国際社会」が日本の「原子力計画の軍事化」を黙過するような動きがある、と指摘していることである。曰く。

    「国際社会は、IAEAのような国際機関に対し、中立性の遵守や公正な裁断を求めている。だが、イランの核問題が国際問題と化して以来見られるものは、私欲や不公正な行動のみである。こうした問題は、確かにエルバラダイ氏がIAEAの事務局長を務めていた時期にも見受けられたが、天野氏がこのポストに就任してからは、いささか異なった配色や気配を帯びてきている。」

    「特に、天野事務局長がIAEAのトップに就任して以来、この国際機関の法に外れ専門性に欠けた行動が目立ってきているが・・・イランの核活動を巡る喧騒の狭間で、一部の国は表向きに核兵器製造計画の方向へと、水面下ながらも着実に歩みを進めているようである。もっとも、こうした水面下での活動に対する疑惑は、一度たりともIAEAでの協議の場にかけられたことはない

    「日本も、こうした国の1つであり、自国の原子力政策の方針に則って、核兵器製造は、自国の安全保障に関係する国際情勢にかかっているとしている。だが、このことは、この分野に関する日本政府の措置をめぐる一部の疑惑とともに、日本人である天野事務局長の世界の安全保障に関する懸念材料にはなっていない」

    このように述べた上で、記事は「西側のメディアの報告及び、機密報告さらには、日本や西側諸国の政府当局の発言を元にした、13項目にわたる日本の原子力計画の概要」を列記する。これらは、「ある1つの共謀を明確に裏付けるもの」だと。

    どこまで「事実」でどこからが「捏造」か?
    各自自分で判断しながら読んでみよう。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    日本の原子力計画の概要

    1. イギリス国防省の機密報告は、日本の原子力計画における逸脱の発生を完全に熟知している。

    2. 1967年のCIAに関するある機密報告では、日本の衛星打ち上げ用ロケット・ミューに核兵器が装備されている可能性があると言われている。

    3.1994年1月30日、イギリスの新聞サンデータイムズは、「日本は今、核兵器を製造する可能性がある」と伝えた。

    4.1967年、当時の佐藤総理大臣によって打ち出された非核三原則は、核兵器の製造を禁じておらず、この兵器の製造は、国際的な状況が日本の国家安全を確保できるかどうかによるとしている。

    5.アメリカは常に日本を核を持たない国のよい例として提示している。

    6.1967年、日本は、核兵器獲得の利害について検討している。

    7.佐藤総理大臣は1965年、アメリカの大統領に、「共産国の中国が核兵器を持つことができるのであれば、民主主義の日本も同様に持つことができるはずだ」と述べている。

    8.研究者は、「日本は長年、核兵器製造能力を持ちながら、その実験に関して、地理的な制限を有している」と考えている。

    9.韓国は何度となく、核活動の継続における日本の前例のない自由な行動に抗議してきた。

    10.日本の産経新聞は、2006年9月20日、「国内の核兵器開発の可能性」として、日本政府内の評価について伝えた。この中では、日本は核兵器製造に3年から5年の時間を要する」とされている。

    11.日本には、六ヶ所村という200億ドルの費用をかけた原子力施設がある。日本は現在、(他国で)核兵器製造に使用された燃料の再処理を行っている核兵器を持たない唯一の国である。
     日本で再処理される使用済み燃料の量は、各国で再処理されたものを合わせたものよりも多い。この施設は世界最大の再処理施設である。

    12.熊本大学の研究者らは、プルトニウム爆弾の爆発を引き起こす物質に関する研究を行っている。日本の爆発物に関する機関は、この研究を公開している。

    13.日本は六ヶ所村の原子力施設の完全な稼動を目前にしており、そこでは年間8トンのプルトニウムと、およそ1000個の核弾頭に必要な物質が生産される
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

     記事は、「実際、IAEAによって日本の核活動に関して情報統制が行われていること、これに関してIAEA内でまったく対応がとられていないことは、天野事務局長が日本人であることと関係があるだろうか」と結んでいる。

     上の1から13の中で「事実無根」、「捏造」と定義できるものがあるとしたら、どれだろう?
     残念ながら、私には確信を持ってそう言えるものが一つとして見当たらなかった。
    (「2」についての詳しい情報を私は持ち合わせていない。ただ、米国政府・NASAが関与しているのであれば、まったく考えられないこと、ということでもない。誰か一度調べてみてはどうだろう。)


    「批評する工房のパレット」内の関連ページ
    ⇒「原子力基本法改正案に軍事目的が追加」 (2012, 6/20)

    ・・・
    IAEA天野事務局長、続投へ=イラン核や原発対策が課題 (時事 1/8)
    「・・・天野氏は核兵器開発疑惑が深まるイランに厳しい姿勢を取り続けており、欧米諸国を中心に幅広い支持を得ている。早ければ3月の定例理事会で再任が承認され、9月の年次総会で決定する。任期は12月から4年間・・・」

    電力業界、8国立大に17億円寄付 原子力研究者ら指定 (中国新聞 1/4)
    「・・・8国立大が、電力会社や原子炉メーカー、核燃料加工会社など電力・原子力業界から2011年度までの5年間に計約17億4400万円の寄付を受け取っていた・・・。
     ・・・寄付金はほとんどが提供先を指定されており、原子力工学などの研究者に渡った。原発の新たな安全基準を検討する原子力規制委員会の会合に参加する研究者も含まれていた。原子力規制行政に詳しい専門家からは「国の安全規制に影響する危険性があり、徹底的な検証が必要だ」との声が上がっている・・・。
     ・・・受入額が最も多かったのは東大の約5億6千万円。東北大の約4億1700万円、名大の約2億5100万円、京大の約2億1200万円が続いた。東工大は約1億400万円、九大約8300万円、阪大約7900万円、北大約3800万円だった。
     大学関係者らによると、寄付金は学会に参加するための旅費や備品の購入のほか、寄付講座の開設に使われたという。 寄付したのは原発を持つ東京電力や日本原子力発電など電力8社のほか、電力会社関連企業・団体、三菱重工業や日立GEニュークリア・エナジーなどの原子炉メーカー、原子燃料工業などの核燃料加工会社。 東電は11年3月の福島第1原発事故後は原則寄付をやめている」

    核燃料サイクルの検証と改革~原発事故の教訓とグローバルな視点の導入~

    核燃料サイクルの検証と改革
    ~原発事故の教訓とグローバルな視点の導入~


    (中間報告書)
     平成24年5月25日
    核不拡散研究会

    1.原発事故の教訓-「安全神話」・「一国主義」からの脱却
    東京電力福島第一原子力発電所事故は、我が国そして国際社会に大きな衝撃を与えた。我が国として、この事故を真摯に受け止め、反省した上で、核燃料サイクル政策のあり方を根本から見直さなければならない。 今回の事故の原因については、政府、国会そして民間などで様々な検証・見直しの取組が進められている。その中で、事故の教訓として我が国が特に克服する必要があるのは、「安全神話」と「一国主義」である。

    原子力の平和的利用に不可欠な前提である安全性を追求する上で、自らが見たいものだけを見る、異質なものは排除するという閉じた論理によって形作られた「安全神話」に二度と陥ってはならない。このような閉じた論理に基づく安全規制のあり方は、我が国の原子力が置かれた社会環境を固有のものと捉え、それに対して内向きに適応したという意味で、まさに「ガラパゴス化」と呼べる現象であった。「一国主義」の独善に陥ることなく、国際社会の中でグローバルな視点から様々な知見を共有し、相互に学びあうことなしに世界最高水準の安全性を実現することはできない。

    一方、厳しい現実に目を向けない内向きな発想から脱却し、グローバルな視点から取り組むべきは、安全性の問題に留まらない。元来、原子力の平和的利用は、原子力安全のみならず、核不拡散・核セキュリティの観点からも、国際的なシステムの中に位置づけられる。また、北朝鮮やイランの核問題は、我が国の安全保障上及び国際政治上の深刻な課題となっている。

    こうした中、世界的に新規原発導入の動きは続いており、使用済燃料をいかに処分するか、濃縮・再処理をどのように扱うか、再処理後のプルトニウムをどのように利用・処分するかといった課題は、その重大性を増すばかりである。また、これらは、我が国の今後の原発依存度に拘わらず向き合わねばならないものである。我が国の核燃料サイクル政策のあり方の見直しは、こうした国際的な観点から徹底的に行われるべきである。

    そもそも我が国は、エネルギー資源に恵まれない中で、勤勉な労働力と優れた技術力を基盤として国力を伸ばしてきた。今後、人口減少や財政難が続く中にあってこそ、こうした我が国の資産と言える労働力・技術力や、それを活かした構想力を武器とせねばならない。そして、新興国も加わったエネルギー、国際経済、国際政治にまたがるメガ・コンペティッションを生き抜く上で、核燃料サイクルをどのように位置付けるかについて、その存続ありき、断念ありきではなく、あらゆる角度から徹底的に検討・精査する必要がある。

    いかなる原子力の取組も、国民と国際社会双方からの「信頼」がなければ成り立たない。今回失墜した原子力行政・事業への信頼を回復するため、政府・事業者は透明性を常に確保し、説明責任を果たさなければならない。

    2.検証と改革の必要性
    (1)グローバルな視点の導入

    核燃料サイクルを検証する際、視野の狭い、短期的な議論に終始してはならない。また、事故以前と同様に「一国主義」的な見方を踏襲することは許されない。政策を総合的に捉え、世代を超えた長期的な視点を持つとともに、グローバルな視点から大局的な検討・判断を下すことが必要である。

    具体的には、すでに多くの議論が行われている経済性やエネルギー・ミックスの視点のみならず、国際的な核不拡散や原子力の平和的利用の視点からも検証すべきである。加えて、変動するグローバル・バランスを見据えながら、エネルギー・産業技術などの国家基盤のあり方、将来世代へ受け継ぐ基盤のあり方、各国との連携による国際戦略上の基盤の形成といった総合的な国力の観点からも検証することが必要である。

    これまで国際社会は、新規原発導入の流れが強まる中、核テロや北朝鮮、イランの核問題への危機感を踏まえて、核不拡散条約(NPT)体制下での核燃料供給や使用済燃料処分のあり方について議論を続けてきた。こうした議論において、国際的な核燃料供給体制の整備について一定の方向性も示されている。一方、バックエンドについては目立った議論の進展はないが、今後その重要性は増すことが予想される。

    これらは、核不拡散・原子力の平和的利用を進める上で根本的な課題である。従来からの「核不拡散」と「奪い得ない権利」の二項対立的な論争を繰り返してはならない。我が国は、唯一の戦争被爆国として、また非核兵器国の中で唯一核燃料サイクルを進めてきた国家として、これらの相反する見解を橋渡しする役割を追求してきた。これまでの核燃料サイクルに関する技術的な取組はもとより、こうした国際政治上の経緯・立場を踏まえて、今後、我が国が核燃料サイクルを通じて国際的に貢献する役割がないか、議論を尽くすべきである。

    我が国はこれまで、エネルギー安全保障の基盤を強化するために核燃料サイクルを推進してきた。今回の原発事故の反省に立ち、他の主要なエネルギー源として再生可能エネルギーの開発・利用を一層加速させる必要があるが、それが基幹エネルギーとなる目途はまだ立っていない。また、新興国でのエネルギー需要の高まりや、不安定な中東情勢などを踏まえれば、経済コストや供給安定性の面から化石燃料へ大きく依存し続けることは得策ではない。

    一方、我が国の原子力・核燃料サイクル政策・事業の帰趨は、国際的な原子力技術・利用の動向のみならず、エネルギー市場における需給バランスに大きな影響を与えるため、国際的に注視されている。これらの点にも留意すべきである。我が国核燃料サイクルの見直しは、こうしたグローバルな視点を改めて導入し、総合的・大局的に進める必要がある。

    (2)規制・事業のガバナンス改革
    核燃料サイクルを見直す中で、六ヶ所における濃縮・再処理事業や「もんじゅ」事業が計画通りに進んでいない現実から目を背けるわけにはいかない。これまでの失敗を受けて、技術的な実現可能性、経済性、プルトニウム利用の見通し、今後の国民負担など、多くの疑問が突き付けられていることも事実である。

    今回の事故で露呈した「ガラパゴス化」した政府の規制体制はもちろん、事業体制についても、失敗を繰り返した旧態依然のやり方では、核燃料サイクル政策のあり方の見直しは絵に描いた餅にしかならない。グローバルな視点から核燃料サイクルの検証を進める中で、政府・事業の体制のあり方や、人材・技術基盤のあり方を徹底的に検証し、その上で、抜本的に改革する必要がある。この検証・改革は、一定の期限を設定し、緊張感をもって実行すべきである。

    3 取り組むべき検証・改革
    (1)政府の3S規制体制の確立
    今回の事故の反省に立ち、我が国は、原子力安全の継続的な向上に最優先で取り組むとともに、原子力行政に対する国民の信頼回復を図る観点から、安全規制・監視機能と事業の推進機能を分離して組織の独立性を確保し、不当な圧力を受けずに厳格な安全規制を行う体制を構築することが不可欠である。また、新たな安全規制組織を担う人材の集約・育成・効果的な運用により、質の高い人材の長期的・安定的な確保を図る必要がある。こうした観点から、3S(安全、不拡散・保障措置、セキュリティ)の取組を総合的、戦略的、集中的に進める体制へ刷新すべきである。

    我が国の安全規制のあり方が再び内向きになってはならず、常に最新の国際的知見を導入する体制を構築する必要がある。規制そのものや緊急時対応能力を抜本的に強化することはもちろん、継続的な安全性向上を追求する文化を定着させなければならない。同時に、原子力安全に関する英知を結集し、人材・技術基盤の強化を進める必要がある。また、我が国は、原発事故の教訓を国際社会と共有する責務を有しており、国際的な安全性の向上に引き続き貢献する必要がある。

    核不拡散・核セキュリティを巡って国際情勢は揺れ動いており、その動向は我が国の安全保障に直結する。核不拡散・核セキュリティの強化に向けた規制強化と体制構築が不可欠である。 まず、核セキュリティ強化に向けて、規制・法執行当局などの政府体制の強化、内部脅威対策としてのセキュリティ・クリアランス制度の導入促進、施設の設計段階や核物質の輸送段階での対応強化などを速やかに進める必要がある。

    また、核不拡散の取組を一層進めるため、保障措置に係る規制・体制を強化する必要がある。その際、自国が拡散懸念の対象にならないことに専念し、他国・地域での拡散懸念への対応に積極的に貢献しない「一国不拡散主義」に陥ってはならない。また、保障措置の「優等生神話」に捉われることなく、保障措置実施のための規制・体制を一層強化するとともに、特に東アジア各国の保障措置体制の整備や、国際的な保障措置活動に従来以上に貢献すべきである。

    さらに、国際的な核不拡散・核セキュリティの議論を踏まえ、我が国は、利用目的のないプルトニウムを持たないとの基本方針に沿って、今後のプルトニウムの利用・処分について具体的な道筋を示す必要がある。その際、イギリス、フランスなど同様の課題を抱える他の国々との間で、MOX燃料利用や長期貯蔵、将来的な高速炉の開発・利用などの具体的な措置について議論を深め、連携して解決策を模索することが有益である。

    (2)事業推進体制の刷新
    六ヶ所における濃縮・再処理事業、「もんじゅ」事業は、停滞あるいは未だに本格稼働に至るめどが立っていない。その間、莫大な資金が投下され、負担は最終的に国民が負っている。なぜこのような事態に陥っているのか、その原因を追究するとともに、人材・技術・予算などの事業を取り巻く環境やガバナンスのあり方を徹底的に検証し、見直す必要がある。

    長年にわたって事業が成功していない原因は、技術的事項に留まらず、事業推進体制の構造的な問題に求めざるを得ない。特に日本原燃や日本原子力研究開発機構(JAEA)においては、総括原価方式を背景とした電力事業者による支援や、国費の直接投入によってコスト意識が希薄になっていないか、技術革新を生み出しにくい他者依存の体制になっていないか、出向者中心の体制の下で責任の所在が曖昧になっていないか、明確かつ大局的な方針の下で事業を実施する経営体制となっているかなどが重要な論点である。

    折しも、政府が日本原燃の最大出資者たる東京電力に出資することとなる。また、JAEAの研究開発事業見直しを含めた独立行政法人改革が進められている。これらを契機として、国が主体的に議論をリードし、日本原燃及びJAEAが進めてきた核燃料サイクル事業推進体制にメスを入れ、その改革を大胆に進めるべきである。

    すなわち、国の具体的な関与のあり方、官民の責任分担や経営体制のあり方などを徹底的に検証し、日本原燃及びJAEAにおける核燃料サイクルの事業体制を刷新しなければならない。その際、事業における3S体制も併せて強化することが必要である。

    我が国における使用済燃料の管理・保管は、事業者が進めてきた。現在、その多くを各原子力発電所内で保管しており、この状態が続けば、遠からず使用済燃料プールが満杯になるサイトが出てくる。こうした使用済燃料をどのように管理・保管し、処分するかは、国内での原子力発電の利用比率に拘わらず、長期にわたって対応が必要な重い課題である。

    これを踏まえ、中間貯蔵に関する体制と事業のあり方、乾式キャスクによる保管のあり方など、使用済燃料に関する対策の検討・準備を総合的に進めるべきである。また、バックエンド全体の事業のあり方を見直す中で、最終処分のための技術開発や処分場設置に係る取組を着実に進める必要があり、原子力発電環境整備機構(NUMO)の体制や事業の進め方について併せて検討することが重要である。

    (3)人材育成・技術基盤の強化
    今回の原発事故対応や国内外に対するコミュニケーションに際し、我が国の原子力専門家の力量不足が明らかになった。我が国の原子力に関する人材育成・技術基盤の脆弱さが露呈したと言わざるを得ない。 一方、我が国は、今後の原子力発電の利用比率に拘わらず、東京電力福島第一原発の廃炉、除染・健康管理等への対応、既存の原子力発電所の廃炉や使用済燃料の処理など、多くの問題から逃れることはできない。また、世界的に新たな原発導入の動きが継続する中、原子力安全、核不拡散や核セキュリティに係る国際協力やルール作りが一層拡大することが予想される。

    こうした原子力を取り巻く困難な課題に挑戦し、かつ世界へ貢献するためにも、これまで以上に高い技術力と専門性を有し、国際的に活躍できる原子力専門家が必要であり、そのための人材育成基盤を整備・強化する必要がある。同時に、内外の英知を結集して、廃炉などを着実に進める技術基盤の確立・強化、その技術を活かした新たな産業基盤の構築を追求すべきである。こうした取組を、政府、事業者のみならず、大学、研究機関、関連企業で早急に進めるとともに、息の長い取組とすることが必要である。

    (4)「国際化」の可能性
    核燃料サイクルに関する政府の規制や事業者の体制について、徹底した検証と改革を進めると同時に、グローバルな視点に立った核燃料サイクルの「国際化」を検討すべきである。こうした国際社会との連携に継続的に取り組むことが、核燃料サイクルの安全性を向上させ、核不拡散や核セキュリティに関する措置の実効性を高める上で重要である。 なお、「国際化」を進める場合にも、核不拡散の取組を緩めてはならず、機微技術を外国に移転しないとの原則を堅持する必要がある。

    (ア)核燃料供給保証
    国際的な原子力発電の導入の動きによってウラン濃縮の需要が高まっている。一方、懸念国による独自の濃縮能力獲得は、核不拡散上の深刻な問題となっている。核燃料供給保証は、こうした動きを抑制する方策として、国際的な議論が進められてきた。今後、我が国の核燃料サイクルに関する事業推進体制を見直す中で、我が国事業者がグローバルな核燃料供給体制に参入し、その多様化・安定化や、供給途絶時の燃料供給保証に貢献するなど、フロントエンドに関する我が国の国際貢献のあり方とその実現可能性について改めて検討すべきである。

    (イ)バックエンドでの国際連携・研究開発
    使用済燃料処分は、我が国のみならず国際的に一層重要な課題となっている。原発技術を有する我が国の供給国としての立場と責任を踏まえれば、国際的な使用済燃料処分の問題に目を閉ざすわけにはいかない。このため、我が国が、中間貯蔵、再処理、高速炉、地層処分などのバックエンドに関する国際的な連携体制の構築や政策ディスカッションに主体的に関与するとともに、高速炉に関する国際共同研究開発などをリードすることを検討すべきである。

    (ウ)3Sの基盤提供
    原発の新規導入国が3Sを実施できるよう、先行導入国が積極的に支援することが重要である。特に、我が国が東アジアの原発導入国に対して3S基盤を統合的に提供することは、原発事故の教訓とともに、非核兵器国として核燃料サイクルの取組から得た知識・経験を共有する意味で重要である。その際、二国間・多国間において必要な国際ルールの整備を並行して進めるべきである。

    実際、ベトナムなどから我が国に対して、廃棄物処理における協力や安定的な燃料供給に関する要望が寄せられ、また事故後も、我が国の原子力技術に対する信頼が表明されている。こうした期待に応えることは、相手国との二国間関係強化とともに、東アジアでの我が国の外交、安全保障、経済にまたがる国際戦略基盤の強化に資するばかりでなく、地域的・グローバルな核不拡散・原子力の平和的利用の取組に貢献するものである。

    (エ)核燃料サイクル全体の更なる「国際化」
    規制・事業のガバナンス改革が進展し、政策の方向や各事業の見通しが整った場合、国際的な核不拡散・原子力の平和的利用の観点から、六ヶ所再処理工場を利用した他国の使用済燃料の処理・返還の可能性を含め、我が国核燃料サイクル全体の更なる「国際化」を進めることが視野に入ってくる。その際、「国際化」のスコープとして、グローバルな枠組みとするか、地域的な枠組みとするか、パートナー国をどのように得ていかに協力するかについて検討を進める必要がある。

    なお、この検討にあたっては、国民や立地地域の理解が重要であることは言に俟たない。また、放射性廃棄物の最終処分は各国の責任で解決の道筋を付ける必要がある。

    4 今後の道筋
    (1)3年の検証・改革期間
    本年3月、オバマ米大統領は韓国での演説において、核燃料サイクルを次世代に至るまでの重要な課題として捉え、将来へ向けて国際的なコミットメントが必要である旨述べた。これは、国際社会で原発の新規導入が継続する中、核燃料サイクルに内在する意義と課題を強く再認識したものであり、その国際的な議論が急速に進行する可能性を示唆している。

    こうした中、我が国が、原発事故の教訓を真摯に受け止め、核燃料サイクル政策・体制・事業について自ら検証し、改め、出直すために許された時間は少ない。漫然とした様子見の姿勢は、負担を強いられる国民にとっては停滞ではなく損失である。国内外の情勢を真摯に受け止め、現実を総合的に勘案すれば、徹底的な政策・体制・事業の検証と規制・事業のガバナンス改革を断行するために許される期間は、せいぜい3年である。

    この期間内に、まずは政府の3S規制・体制を強化するとともに、日本原燃及びJAEAなどの事業推進体制を刷新し、同時に、技術課題を克服して今後の事業の可能性を見極めなければならない。特に、日本原燃及びJAEAのガバナンスの検証・改革は、東京電力改革や独立行政法人改革を好機と捉えて1年を目途に方向を決定すべきである。こうした改革の進捗や国際社会のニーズを踏まえて、核燃料サイクルの「国際化」に向けた具体的な検討を進めなければならない。これらの取組について目に見える進展がなければ、我が国の核燃料サイクルの展望は開けないとの不退転の覚悟で臨むべきである。

    (2)信頼回復に向けて
    核燃料サイクルの徹底した検証と改革に当たって、透明性を確保し、国民的議論を提起しながら、責任ある判断・決定を行うことこそ、政府と事業者が信頼を得る唯一の道である。核燃料サイクルに対する信頼を得る最後のチャンスと肝に銘じて、透明性のある検討を堂々と行うべきである。

    (了)

    核不拡散研究会のメンバー
    遠藤哲也(元国際原子力機関(IAEA)理事会議長)(代表)
    谷口富裕(前 IAEA次長)
    山地憲治(地球環境産業技術研究機構理事・研究所長)
    秋山信将(一橋大学准教授)

    (報告文中の強調は引用者による)

    ・・・
    関連考サイト
    内閣府原子力委員会 (昨年6月21日、委員会決定を経てエネルギー・環境会議へ提出した、核燃料サイクル政策の選択肢について(平成24年6月21日 原子力委員会決定)核燃料サイクル政策の選択肢に関する検討結果について (原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会 座長報告) を上の「中間報告」と対比しながら読んでほしい。

    なお「中間報告」の原文は、細野豪志民主党議員の公式サイトに掲載されている。

    ・・・
    東アジア核のごみ 六ケ所村で再処理受託 政府、核燃の延命構想
     「昨年末の発足後、脱原発路線の見直し発言が相次ぐ安倍晋三政権。内閣や官邸の顔ぶれを見ても原発維持派がずらりと並んだ。
     最大の焦点は、日本の原子力政策の中核を占めた核燃料サイクル事業の位置づけ。福島の原発事故で原子力施設の安全性が疑問視される中、韓国など東アジアの原発から出る使用済み核燃料を青森県六ケ所村の再処理施設で再処理することで延命を図る構想が浮上している。・・・」((東京新聞 1/6 北島忠輔、谷悠己)」

    2013年1月7日月曜日

    「脱原発の呪縛」と「原発の呪縛」論の錯誤(1) ~再び、原発政策において自民党と民主党に違いはあるか?

    「脱原発の呪縛」と「原発の呪縛」論の錯誤(1) ~再び、原発政策において自民党と民主党に違いはあるか?

     京都大学・原子炉実験所の山名元教授が、「年頭にあたり 原発政策を現実に引き戻す時だ」という文章を書いている(産経新聞「正論」 1月4日)。そして教授のこの一文を「理論的支柱」にでもするかのように、産経新聞は今日(7日)、「日本のエネルギー 「ゼロの呪縛」を解こう 原子力を基軸に再構築せよ」なる「主張」を公開した。

     産経新聞の「脱原発の呪縛」論は、毎日新聞が先月特集した「原発の呪縛」シリーズへの対抗言説としてあり、山名氏の一文は、毎日新聞による吉岡斉氏へのインタビュー、「特集ワイド:原発の呪縛・日本よ! 科学史家・吉岡斉さん」を意識したものになっているように読める。

     しかし、それぞれの文章を読み進めるにつれ、「脱原発の呪縛」論と「原発の呪縛」論のいずれに対しても、1)、前野田政権の原発政策の分析と、自民党の政権公約に記されている原発・エネルギー政策の分析、2)、先の選挙結果に関する分析に誤解や誤りがあるのではないか、という思いを強くした。
     1)に関する私の論点は、
    ①党として打ち出されている自民党の原発・エネルギー政策なるものと、前野田政権のそれは、レトリック上の違いを除くなら、いずれもその基本にあるのは原発推進論であって、両者にさしたる違いはないこと、また、
    ②選挙後の安倍首相を筆頭とする一部閣僚による原発の新規建設や再稼動を推進する発言は、自民党の公約からの逸脱だという点にある。そして、
    ③この安倍政権の先走った政治的暴走にもまた、先の選挙結果に対する安倍首相本人の根本的な「勘違い」が読み取れるのではないか、という点である。
     最初に、自壊した民主党野田政権が「原発ゼロ」政権であったかのような広く流布している固定観念とその論調についてみていこう。

    1、民主党野田政権=「原発ゼロ」論の錯誤

     山名教授は言う
    ・・
     新政権がまず行うべきは、前政権の「革新的エネルギー・環境戦略」を、いったん白紙に戻すことである。現実的な具体策や論理性を欠きながらも、「2030年代の原発ゼロ」を至上命令としたこの文書の、基本政策としての妥当性を問う声は多いうえ、この「原発ゼロ目標」をそのまま政権公約とした民主党が総選挙で敗北した事実は重い。
    ・・

     野田政権は、いつ「「2030年代の原発ゼロ」を至上命令」としたのか? 
     民主党は、いつ「原発ゼロ目標」をそのまま政権公約とした」のか?
     これらの事実に基かない、意図的な誇大表現と事実誤認、それらに隠れた政治的意図を見破るためには、野田政権の「革新的エネルギー・環境戦略」(2011年9月14日)と、これに基く閣議決定(同、9月19日)をセットで、これらの一字一句に目を通すだけで十分である。

     「革新的エネルギー・環境戦略」は次のように述べている。
    ・・
     「革新的エネルギー・環境戦略」は、省エネルギー・再生可能エネルギーといったグリーンエネルギーを最大限に引き上げることを通じて、原発依存度を減らし、化石燃料依存度を抑制することを基本方針とし、これまでの広く多様な国民的議論を踏まえ、次の三本柱を掲げる。
      
     第一の柱は、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」。
     これを確実に達成するために、3つの原則を定める。これにより、第二の柱「グリーンエネルギ
    ー革命の実現」を中心に、2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。その過程において安全性が確認された原発は、これを重要電源として活用する
    ・・

     また、この「戦略」の5日後になされた閣議決定の内容はこのようになっている。
    ・・
     
     今後のエネルギー・環境政策については、「革新的エネルギー・環境戦略」(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定)を踏まえて、関係自治体や国際社会等責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。
    ・・
      いったい、この「例によって例の如し」としか言いようのない「霞が関文学」から、何か日本政府あるいは与党民主党の〈政策〉として「確たる方針」と言いうるような、何がしかのものを読み取ることができるだろうか?
     「原発稼動ゼロ」と「原発ゼロ」が、まったく違うものであることは誰にだって理解できるだろう。
     「稼動ゼロ」とは、各原子炉の「冷温停止」状態を維持し続ける⇒発電を停止し続けることであって、原発事業所の廃止はおろか原子炉の廃炉さえ意味しない。

     要するに、民主党=「原発ゼロ」=「非現実的」=「理想主義」なる表現は、民主党叩き・潰しのために原発推進・再稼動容認派によって意図的に使われてきた、いわば「政治用語」なのである。その背後に隠れているのは、民主党を叩き、潰すことによって、歴代自民党政権による原発推進・エネルギー政策の抜本的見直しを訴えてきた脱原発運動を叩き、潰すという原発推進・再稼動容認派の政治戦略である。

     「革新的エネルギー・環境戦略」は、「稼動ゼロ」をめざすとしながらその一方で、「安全性が確認された原発」を「重要電源として活用」するという矛盾した表現に明らかなように、「ベスト・ミックス」論に余地を残しているいう点において、「稼動ゼロ」さえ本気で追求しているとはいえない。
    (逆説的な言い方になるが、誰がどのように原発の「安全性」を「確認」するのかについては置くとしても、「安全性」が「確認」された原発をなぜ稼動停止にする必要があるのか? まったく意味不明、支離滅裂だとしか言いようがない。因みに、脱原発の基本的論理は、原発の「安全性」なるものは「確認」できない、というところにある。) 

     しかし、ここで「戦略」の矛盾を問題にしても、それこそ意味がない。なぜなら、「戦略」=野田政権の原発政策の根幹にあるのは「推進」の二文字だったからである。推進派であるにもかかわらず、脱原発の世論に流され「稼動ゼロ」を語ろうとするから、主張は論理的一貫性を欠き、意味不明で支離滅裂となる。

     「閣議決定」の文言にある「国際社会等と責任ある議論を行い」、「柔軟性をもって・・・」「遂行する」という有権者を欺く官僚言葉に注目してほしい。これらの表現のいったいどこに、民主党=野田政権の「稼動ゼロ」「原発ゼロ」?に向けた意思と決意を読み取ることができるだろう?

    2、自民党の政権公約から離れ、勘違いしながら暴走した安倍首相

     一方、安倍政権はどうか。
     自民党の公約、「現在及び後世の国民生活に責任の持てるエネルギー戦略の確立」を参照しながら、まずこの間の安倍首相を始めとした一部閣僚の暴走、つまりは彼らの発言(妄言?)と党の公約とが乖離したものであったことを確認しておこう。

     「戦略の確立」は、次のようになっている。
    ・・
    ・いかなる事態・状況においても社会・経済活動に支障がないよう、エネルギー需給の安定に万全を期します。

    全てのエネルギーの可能性を徹底的に掘り起こし、社会・経済活動を維持するための電力を確実に確保するとともに、原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立を目指します

    当面の最優先課題として、3年間、再生可能エネルギーの最大限の導入、省エネの最大限の推進を図ります。

    ・原子力の安全性に関しては、「安全第一」の原則のもと、独立した規制委員会による専門的判断をいかなる事情よりも優先します。原発の再稼働の可否については、順次判断し、全ての原発について3年以内の結論を目指します。安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。

    ・中長期的エネルギー政策として、将来の国民生活に責任の持てるエネルギー戦略の確立に向け、判断の先送りは避けつつ、遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミックス」を確立します。その判断に当たっては、原子力規制委員会が安全だと判断する新たな技術的対応が可能か否かを見極めることを基本にします。
    ・・

     果たして、自民党の公約内容に民主党野田政権の「戦略」との根本的な差異を確認することができるだろうか? できない、と私には思えるが読者はどうだろう。 たとえば、12月28日付けの日経新聞の記事がある。その中では、安倍首相が全閣僚に指示した内容が明らかにされている。
     記事によると原発の再稼働について、首相は「安全性が確認された原子力発電所は順次再稼働し、重要電源として活用することで電力の需給に万全を期す」と言明したとされている。安倍首相は「中長期的に原発依存度を下げることを目指しつつ、足元のエネルギー需給に配慮して再稼働を進めていく立場を示した」のである。

     原発推進・新規建設を進めながらも、「中長期的に原発依存度を下げることを目指しつつ」、「再稼働を進めていく」ことは、少なくとも論理上は矛盾しない。これがいわゆる「ベスト・ミックス」論なるものの基本理念である。
     民主党の「戦略」にある、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう」という経産省・財界の再稼動戦略と矛盾した、つまりは「安全性が確認」された原発の順次再稼動を前提にすれば実現不能になる「稼動ゼロ」論を除外すれば、自民党の原発政策はその実質において民主党の「戦略」とさして変わり映えのしない代物だということが理解できるのではないだろうか。
     

    3、安倍首相の軌道修正?

     年が明け、原発政策をめぐる安倍首相の発言は、連続的再稼動と新規建設、福島第二の存続までをも示唆していた年末までの威勢のよかった発言からトーンダウンし、軌道修正したかのようにも聞こえなくもない。 1月4日の記者会見
    ・・
     「低廉かつ安定的な電力供給は可能か否か、世界の化石燃料の供給リスクについての情勢判断、(福島第一)原発事故の検証と安全技術の進歩の動向をじっくりと見据えながら、ある程度の時間をかけて腰を据えて検討していきたいと思います」
     安倍首相は、「できる限り原発依存度を低減させていくという方向、方針に沿って判断をすべきだというのは当然のことだ」とした上で、原発の新規増設・再稼働の判断を急がない考えを示した・・・」(日テレニュース)
    ・・

     「原発の新規増設・再稼働の判断を急がない考え」もクソもない。そもそも「原発の新規増設」など、自民党の政権公約には一言も出てこない。
     また、公約に従うなら、首相や内閣が再稼動の判断を急ごうにも、急ぎようがない。すべては規制委の判断待ちだと公約で公約しているのだから。
     要するに、昨年暮れの一連の安倍首相による新規増設・連続的再稼動発言は、政権公約とかけ離れ、党の方針にも反した圧勝に浮き足立った安倍首相の一人芝居、あまりに先走った暴走だったと解釈したほうが実態に近そうである。

     自民党の政権公約と、原発の連続的再稼動と新規増設を主張する安倍首相や一部閣僚の政治主張との間には、明らかに乖離がある。それだけ「3・11」がもたらした現実は甚大だったということだろう。
     現に存在する乖離が、まるで存在しないかのように振舞いながら、今夏にも規制委が策定する予定の「新安全基準」を待って、秋以降の再稼動の地ならしをすること。そのために徹底した「脱原発の呪縛」論をキャンペーンすること。原子力ムラの利害と戦略を一身に背負った安倍首相と安倍内閣にとっての焦点は、すでにそこに移っている。

     原発推進・連続的再稼動容認派の先走った発言や暴走に惑わされないようにしたいものである。

    (つづく)

    「批評する工房のパレット」内の関連ページ
    ⇒「「議論が深まらない社会」(1)--「脱原発依存社会」をめぐって」(2012, 8/1)
    ⇒「「脱原発依存社会」宣言をどう評価するか?」(2011, 7/14)

    ・・・
    「福島の原発全廃」75% 福島民報調査 県民に強い拒否感 (東京新聞 1/7)
    「・・・福島県民を対象とした意識調査で、冷温停止中の東京電力福島第一原発5、6号機、第二原発1~4号機の再稼働について、「全て廃炉にすべき」との回答が75・4%を占め、脱原発を強く望む意識が浮かび上がった。福島民報社が調べた・・・」 

    「原発再稼働」「需要拡大」=諮問会議で重視-民間議員2氏 (時事)
    「・・・政府が再開する経済財政諮問会議の民間議員に内定した三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長は7日、都内で記者団に対し「成長戦略とエネルギー政策を諮問会議のテーマとしたい」と語った。特にエネルギー政策に関して「いかに原発を再稼働するかだ」として、再稼働が必要との立場を論議で強調する考えを示した・・・」

    「先行除染も手抜き」 福島第一原発周辺の作業員証言 (朝日新聞 1/6)
    「・・・建物や道路から20メートル内の本格除染に先駆けて作業拠点となる役場などで実施した先行除染でも、回収しなければならない枝葉や水を捨てる「手抜き除染」をしていたと証言した・・・」 http://news24.jp/articles/2013/01/04/04220696.html

    2013年1月2日水曜日

    【緊急署名】避難基準に福島原発事故の実態を!

    【緊急署名】避難基準に福島原発事故の実態を!

    FoE Japanより。

    原子力規制委員会は、現在急ピッチで、原発事故がいざ生じたときの防災計画策定のための避難基準を検討しています。ところが、現在の案では、事故後数時間は毎時500μSv(7日間50mSv)、その後は毎時20μSv(年20mSv)と高い避難基準が設定されています。
    メディアは、規制委の説明をうのみにして、IAEAの異常に高い基準、すなわち毎時1000μSv、7日間100mSvと比較して、 「国際基準より厳しく」などと報道していますが、これは比較する方が誤りでしょう。)規制委が踏まえなければならないのは、IAEAの異常な基準ではなく福島の実情そのものです。

    防災計画を策定する範囲のUPZ(緊急防護準備区域)は30kmのままですが、これはあまりに狭すぎます。計画的避難区域とされた飯館村は福島第一原発から40~50kmでした。同村に避難指示が出されたのは、事故後一カ月以上たったときであり、その間、村民の方々は、事故後もっとも高い線量を示した期間、無用の被ばくを強いられました。

    さらに、政府が定めた年20mSvという基準により、多くの方々が 「自主的」判断のもとでの避難を余儀なくされています。このような実状は、今回の避難基準には何一つ反映されていません。それどころか、防災指針で問題の多い年20mSvを正当化してしまいます。この問題を追及していくいくことは、うやむやにされている福島原発事故による住民の被ばくの責任の追及でもあり、原発の存在の根本そのものを問うことになると思います。

    これは私たち自身の問題です。多くの声で、このようなでたらめな避難基準の見直しを求めていきましょう。署名運動を行っています。ぜひご協力ください。
    ※なお、現在の案では避難基準の他にも食物制限基準などが記されています。これはこれで大きな問題だと思いますが、今回は避難基準に焦点をあてた署名としました。
    ----------------------------------------------
    【緊急署名】避難基準に福島原発事故の実態を!
    7日間50mSv、年20mSvは高すぎる
    緊急防護準備区域(UPZ)30kmは狭すぎる

    http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/750msv20msv-upz.html
    ----------------------------------------------
    オンライン署名フォーム:  https://fs222.formasp.jp/k282/form1/
    補助フォーム:  https://pro.form-mailer.jp/fms/6fd4c23135853
    団体署名はこちらから:  https://pro.form-mailer.jp/fms/87992e8335813
    紙フォーム(添付):
    https://dl.dropbox.com/u/23151586/121228_20mSv_shomei.pdf
    一次締め切り:1月9日(水)23時
    二次締め切り:1月15日(火)23時
    三次締め切り:1月28日(月)朝10時
    ----------------------------
    2013年1月  日
    原子力規制委員会 委員長 田中俊一様 委員各位

    【緊急署名】避難基準に福島原発事故の実態を!
    7日間50mSv、年20mSvは高すぎる
    緊急防護準備区域(UPZ)30kmは狭すぎる

    要請事項:
    1. 30kmのUPZの範囲を拡大すること
    2. 7日間50mSv、年20mSvという緊急時避難基準、早期防護措置の一時避難基準を見直すこと
    3. 福島原発事故後に取られた避難政策を検証すること。このため、被災住民、避難者のヒアリングを実施すること
    4. 防災指針や避難基準に関して、懸念を有する市民の声を広くきくため、公聴会を開催すること。
    5. 拡散シミュレーションをやり直すこと

    【背景および要請理由】
    12月27日、原子力規制委員会の「第5回原子力災害事前対策等に 関する検討チーム」会合で、下記の基準が示されました。

    ・原発事故時の緊急時の避難基準として500μSv/時、包括的判断基準として実効線量50mSv/週→数時間内を目途に区域を特定し、避難等を実施
    ・早期防護の一時移転基準として20μSv/時、包括的判断基準として実効線量20mSv/年→1日内を目途に区域を特定し、1週間内に一時移転を実施。
    (出典:12月27日開催「第5回原子力災害事前対策等に関する検討チーム」資料4)
    http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/pre_taisaku/data/0005_04.pdf

    原子力規制委員会は緊急防護準備区域(UPZ)を30kmとしており、この範囲内の自治体は3月18日までに地域防災計画を策定することとなっています。しかし、福島原発事故後の現実や、被ばくの影響を考えれば、この避難基準はあまりに高すぎ、30kmのUPZの範囲設定はあまりに狭すぎます。30kmで不十分なことは、原子力規制委員会による拡散シミュレーションからも明らかです※。

    計画的避難区域とされた飯館村は福島第一原発から40~50kmでした。同村に避難指示が出されたのは、事故後一カ月以上たったときであり、その間、村民の方々は、事故後もっとも高い線量を示した期間、無用の被ばくを強いられました。また、福島第一原発から60km以上の地点でも、事故後20μSv/時以上(福島市で24μSv/時)を観測しました。事務局が示した基準を前提としても30kmの外側についても「避難」の範囲が及ぶことは明らかです。

    さらに、今回の防災指針や30km圏の設定には、放射性雲(プルーム)の影響は考慮されていません。放射線管理区域の基準(実効線量が3月あたり1.3mSv)が年換算5.2mSv、毎時換算0.6μSvであること、チェルノブイリ事故後生じたさまざまな疾患を考えれば、避難基準としての20μSv/時(年20mSv)は高すぎます。

    福島原発事故後、国が示した「年20mSv」という基準による避難区域の外側では、多くの人々が自主的判断のもとでの避難を強いられました。今回の原子力規制委員会の検討はあまりに拙速です。10月に策定された防災指針はパブリックコメントにすらかけられませんでした。

    原発事故によって、最も被害を受けるのは近隣の住民であり、被害の範囲は全国民に及びます。原子力規制委員会は、福島原発事故の実態をふまえるため、被災住民からの聴き取りを行うとともに、広く懸念を有する市民の声をきくべきです。

    ※原子力規制委員会による拡散シミュレーションでは、100mSv/週という異常に高いIAEA基準でも30kmを超える地点が多くあります。今回採用されようとしている避難基準50mSv/週や20mSv/年の範囲が30km圏を大きく超えて広がることは明らかです。
    予測される空間線量率上位3%をカットする「規制庁方式(97%値)」ではなく、「100%値」で試算すれば、このような地域はさらに広範囲にわたります。このような視点から拡散シミュレーションを見直し、やり直すべきです。

    以 上

    ※参考記事:
    これでいいのか?防災指針緊急時の避難基準…500μSv/時(7日間50mSv)、早期防護の一時移転基準が20μSv/時(20mSv/年)、UPZ…30kmの矛盾
    http://hinan-kenri.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/500sv750msv20sv.html

    2013年1月1日火曜日

    2013年のはじめに ~①再び、オスプレイもグローバルホークもいらない!

    2013年のはじめに  ~①再び、オスプレイもグローバルホークもいらない!

     防衛省と安倍内閣は慌しい年末のドサクサにまぎれ、早ければ2015年までのグローバルホークの導入とオスプレイ導入「検討」に動き出した。これが安倍首相言うところの「日米同盟の深化」ならぬ「日米同盟の強化」の具体的な政策的中身ということになる。

     日本政府・防衛省というのは、国民の税金を使って米国の戦略兵器を日本に売りさばくディーラー、代理店なのだろうか? つまるところ、「日米同盟」というのはそのための方便と言ってよいのかもしれない。

     時間がない。とりいそぎ事実関係のみ押さえておくことにしよう。
    ・・
    ・米無人偵察機「グローバルホーク」で尖閣監視計画 防衛省
     防衛省は、平成27年度までの自衛隊の規模や装備を示した中期防衛力整備計画(中期防)を見直す際に、米軍の最新鋭無人偵察機グローバルホークの導入を明記する方向で調整に入った。中国が活動を活発化させる沖縄県・尖閣諸島周辺などの警戒監視能力を強化する狙いだ。安倍晋三首相は、民主党政権が策定した長期的な防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」と、これに基づく中期防見直しを防衛相に指示した。

     現行の中期防では、グローバルホークを含む無人機導入については「検討する」との表現にとどめている。しかし政府は中国による尖閣周辺の領海、領空侵犯や北朝鮮ミサイル発射が早期導入への追い風になると判断。早ければ27年度までに導入したい考えだ。
     グローバルホークは、高性能カメラや高感度の通信傍受機能を備え、民間旅客機の約2倍の高度約1万8千メートルを30時間以上にわたり自動操縦で飛行する。攻撃能力は備えていない。

    オスプレイ調査費、13年度予算に計上 防衛省、自衛隊導入検討で  (産経 12/30)
    防衛省は、米軍が沖縄に配備した新型輸送機オスプレイの自衛隊への導入を検討するため、2013年度予算案に調査費を計上する方針を固めた。自衛隊の活動の観点から必要性や維持コストなどを研究する。
     オスプレイ導入案は、民主党政権時の10月、安全性に対する国民の信頼性を高めるため、日本自ら保有すべきだとして政府内で浮上。防衛省には、国民感情や費用対効果の観点から慎重論もあったが、当時の森本敏防衛相が、安全保障の側面から「勉強する」として検討を指示した。
     安倍政権は、軍備増強が著しい中国の動きを踏まえ、防衛予算や自衛隊の装備を増強する方針で、今後、導入に向けた動きが加速する可能性もある。ただ、1機当たり100億円程度と高額で、陸海空自衛隊のどこに配備するかも未定。
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    (つづく)

    「批評する工房のパレット」内の関連ページ
    オスプレイもグローバルホークもいらない--「排他的経済水域の脱軍事化」をめざして(2012, 8/7)
    「私たちがロンドン五輪の競技に興奮し、その結果に一喜一憂している間に、米国、中国、ロシアに日本、国際政治で覇権をふるい、「国際の平和と安全」を乱す国々はやりたい放題だ。 これを「オリンピック便乗型ポリティクス」と呼ぶことにしよう。

     シリア情勢と国連安保理批判--というより、核軍事5大国=安保理常任理事国(+イスラエル)の利害で左右される国連体制の機構的欠陥--については後日、改めて述べることにする。 今日は、「中国脅威論」によって強引に正当化されようとしているオスプレイとグローバルホーク配備に対する政策的オルタナティヴについて考えてみたい。
     ポイントは、①「排他的経済水域の脱軍事化」と、②「国際的合意に基づく国境ラインの確定」の二つである・・・」
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    県内反対伝達へ県幹部訪米 普天間飛行場移設 (琉球新報・共同 12/30)
     米軍基地問題を担当する又吉進知事公室長が来年1月上旬にワシントンを訪れ、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設に反対する県の姿勢が変化していないことなどを米政府当局に直接伝達することが30日、県への取材で分かった。
     オバマ米大統領は1月21日に2期目の就任式を行う。安倍晋三首相はその前後に訪米、日米首脳会談を予定している。 安倍政権は日米合意に沿って県内移設を推進する方針のため、県としては首脳会談に先立ち、県内移設に反対する方針が揺らいでいないと米側にあらためてくぎを刺す狙いがある。

    ・・・
    福島原発事故 米特殊チームの情報生かせず「人災」地元怒り (河北新報 1/1)
    「・・・東京電力福島第1原発事故を受けて日本に派遣された米特殊チームが収集したのは、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)で得られる予測値ではなく、実際の汚染度を示す実測値。住民避難の「指針」となるべき貴重な情報が生かされなかったことに、地元の怒りは収まらない。
     2012年7月、国会に参考人として出席した福島県浪江町議会の吉田数博議長は、原発から北西方向に高い放射線量が検出されたことを示す放射能汚染マップを見て、「(早期に)公表されていれば、多くの町民を放射能から守れたのではないか。無念さと同時に憤りを感じる」と政府対応を厳しく批判した。・・・
     
     ・・・吉田議長は国会で「何の対策もデータも持たないわれわれには(米国の実測データは)得がたい情報であったはず。公開しなかったことは人災そのものだ」と怒りをあらわにした。最近の取材にも「政府は(汚染マップを)SPEEDIと同じようにとらえたのか。残念だ」と語気を強めた。
     当時、官房長官として危機管理に当たった枝野幸男氏は「(米データを活用していれば)屋内退避エリアの避難が早くなった可能性はある。なぜ政務まで上がってこなかったのか。本当に遺憾だ」(???)と話した・・・」
     ↓
    「トモダチ作戦」参加の米軍兵士らの東電提訴をめぐって
    「・・・オバマ政権および米軍が、「3・11」直後より福島第一惨事の状況を詳細に調査・分析していたのは周知の事実であり、米軍兵士の被爆責任は、東電と日本政府の共謀というより日米両政府、米軍・防衛省-自衛隊官僚・東電による共謀というべきである・・・。
    ・・・しかし、米国政府や米軍はタダでは動かない。むしろ一般市民・納税者としては、「トモダチ作戦」によって米国・米軍がどのような「見返り」を得ようとするのか、どれだけ利益をむさぼろうとするのかを中心に考えるべきだろう・・・」

    「責任持ち原発再稼働を」 関経連会長 (産経 1/1)
     関西経済連合会・森詳介会長(関西電力会長)。
    「・・・「(電力需要が盛り上がる)2013年夏には相当数の原発が稼働する見通しを出すことが重要だ」。・・・原子力規制委員会には「13年5月ごろまでに新安全基準を策定すべきだ」と強調・・・。
     安倍政権の政策に対しては「経済再生や国際競争力の強化など、われわれと方向が一致している」と期待を表明した」