2015年9月2日水曜日

国立大学よ、どこに行く? 2015 (3)

国立大学よ、どこに行く? 2015 (3)

 もしかしたら、反感をかうかもしれないことを覚悟のうえで言えば、「安保法案」反対運動に立ち上がった大学人や学生は、これから、もっと「現場」に目を向けるべきである。
 いま、日本の大学で何が起こっているのか、これから何が起ころうとしているのか。
 自分の「足元」に目を向け、何をすべきか、何ができるかを、考えるべきである。
 〈戦線〉は常に「現場」にあるのだし、「現場」で声をあげるより、街頭にくり出す方がはるかに楽なことはみんなわかっていると思うのである。

 法案をめぐる政局はあわただしさを増してきたし、これを廃案に追い込むことは、たしかに重大課題ではある。
 けれども、「現場」が、文字通りの、廃墟になってしまったのでは、笑うに笑えなくなってしまう。 大学や大学人の行く末は、社会/市民運動、NGOの行く末にも甚大なる影響を及ぼすので、あわただしい折ではあるけれども、記しておこうと思った。


大学と「日の丸・君が代」

 政府―文部科学省の側から言えば、今年は、2004年に始まった国立大学の「法人化」と、これに連動した公立・私立大学の「法人化」や「制度改革」を総決算し、次の10年以上を見越した、国家としての大学再編の方向性を確定させる年である。 とは言っても、実際には、何か目新しいものがあるわけではない

 これについては、いずれ機会を見つけて別途、触れることにしたいと思うが、国立大学の「法人化」の狙いは、結局のところ、「脱国立化」=「民営化」=「受益者負担」(学費)増額と大学への企業の投資・参画強化、そしてこれらとは逆説的な、「大学経営」方針に対する国家(文科省)統制・介入の一層の強化であったことが、露わになってきた。 「日の丸・君が代」問題は、この.「法人化」以降の、「「大学経営」方針に対する国家(文科省)統制・介入の一層の強化」の文脈に照らして捉えられるべき性格のことだと私は思う。

 今春以降、国立大学をめぐっては、マスコミでも、
① 「大学の社会的要請」(?)を受けた「三類型」への全国大学の再編成や、
② 人文社会・教育学部系の学部・学科の再改編/統廃合問題、
③ 大学教育・研究の「軍学共同」問題などが取り沙汰され、ここでも取り上げてきたが、今日改めて問題にしたいのは、
④ 安倍政権による「日の丸」掲揚・「君が代」斉唱の「お願い」=強制問題である。

 今月から来月にかけ、秋の学期が始まると、日本のほとんど大学は学園祭を経て、入試の準備に入っていく。 そして入試の後にやってくるのが卒業式と入学式である。
 そこで、学生、大学関係者に考えてほしいことがある。
 あなたの大学は、来年の卒業・入学式で「日の丸」を掲揚し、「君が代」を斉唱する予定かどうか。 
 今年はどうだったかを振り返ってほしい。「君が代」の演奏はあったが、斉唱まではしなかっただろうか。

 大学当局は、「日の丸・「君が代」問題に関し、一度でもその是非をめぐり、学生・教職員に議論を開放し、全学的コンセンサスをはかる動きを見せたことがあったかどうか。今、見せているかどうか・・・。

 「安保法案」に反対し、立ち上がった学生や大学人は、自分の「足元」がどうなっているのか、一度、真剣に見つめなおすべきだと思うのである。なぜなら、大学の基幹行事における「日の丸」掲揚・「君が代」斉唱は、来年から飛躍的に拡大することが想定されるからである。

 想像してほしい。
 日本の全大学が、入・卒業式、学位授与式や創立記念日などで、「日の丸」を掲揚し、「君が代」を斉唱するを日を。
 何という、異様で奇怪な風景だろう。
 しかし、この風景を異様とも奇怪ともせず、「当たり前のこと」とする風潮が、16年前の「国旗国歌法」の制定以降、徐々に徐々に広がり、今では国立大学の約3分の2が「日の丸」を掲揚し、約6分の1が「君が代」を斉唱しているである。
 政府―文科省からの「通達」があったわけではない。各大学当局が「自主的」に判断してきた結果である。
 いったい、これまでどのような抵抗運動が「現場」で組織されただろうか? 無風?

 いずれにせよ、これが「法人化」後の国立大学の現状であってみれば、お国から直々に「お願い」があったとなれば、さらに「自主的」に、これまで「日の丸」を掲揚していなかった大学は掲揚し、「君が代」を斉唱してこなかった大学が「検討」を経て、まずは伴奏のみ、次には斉唱するようになるのは、明らかだとはいえないか。今はまだ数こそ少ないとはいえ、「国歌斉唱。起立!」の号令が飛び交っている国立大学が、現に存在するのである!

 問題は、当局がどのような「検討」を行うのか、その情報、経過を全学に開示するか否か、また当局の決定と強制に対し「現場」でどのような「たたかい」ができるか、だろう。 今のところ、この問題に関しては旧帝大系が特権的「自由」を享受しているが、地方の国立大学は「真綿で首が絞められる」ような状況になりつつある。

 大学と、国家と、天皇制。
 もしもまだ、日本の大学に「学問の自由」や「大学の自治」があるとしたら、いや「ある」と言うのなら、これは何としても阻止しなければならないなずである。「思想、信教の自由」さえ大学教育が否定するのだとしたら・・・。

 日本の全大学は、「日の丸」「君が代」問題を通して、来年度から毎年、好むと好まざるとにかかわらず、この問いに、きわめてリアルに、向き合わざるをえなくなった。
 声明を出し、署名を募ることは、たしかに一歩ではあるけれども、重要なことは、学生も含めた持続的な「現場の運動」を起こすことではないか。

 どう考えても、「国歌斉唱。起立!」はダメ、でしょ? ✕✕君。


⇒2015年8月9日 「国立大学よ、どこに行く? 2015(2)」
⇒2015年6月16日 「国立大学よ、どこに行く? 2015
⇒2015年7月24日 「大学研究と軍事研究 2015 -日本型軍産学複合体の台頭」 

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国旗・国歌に関する国立大学への要請に反対する声明

 本年4月9日の参議院予算委員会における安倍晋三首相の答弁を機に、文部科学省は国立大学に対して、入学式、卒業 式において国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう要請するとされている。これは、日本における学問の自由と大学の自治を揺るがしかねない大きな政策転換であ り、看過できない。

 そもそも大学は、ヨーロッパにおけるその発祥以来、民族や地域の違いを超えて、人類の普遍的な知識を追究する場と して位置付けられてきた。それぞれの国民国家の独自性は尊重されるが、排他的な民族意識につながらないよう慎重さが求められる。現在、日本の大学は世界に 開かれたグローバルな大学へと改革を進めているが、政府主導の今回の動きが、そうした方向性に逆行することがあってはならない。

 日本近代史を振り返れば、滝川事件、天皇機関説事件、矢内原事件など、大学における研究や学者の言論が、その時代の 国家権力や社会の主流派と対立し、抑圧された例は枚挙にいとまがない。その後の歴史は、それらの研究・言論が普遍的な価値にもとづくものであったことを示 している。

 大学が国家権力から距離を置き、独立を保つことは、学問が進展・開花する必要条件である。
 文部科学省は今回のはたらきかけは要請にすぎないと説 明しているが、国立大学法人が運営費交付金に依存する以上、「要請」が圧力となることは明白である。

  たしかに教育基本法第二条は、教育目標の一つとして、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土 を愛する(中略)態度を養う」ことを掲げる。しかし、伝統と文化とは何かを考究すること自体、大学人の使命の一つであり、既存の伝統の問い直しが新しい伝 統を生み、時の権力への抵抗が国家の暴走や国策の誤りを食い止めることも多い。 教育基本法第七条が「大学については、自主性、自律性その他の大学における 教育及び研究の特性が尊重されなければならない」とするゆえんである。
 政府の権力、権威に基づいて国旗国歌を強制することは、知の自律性を否定し、大学の役割を根底から損なうことにつながる。

 以上の理由から、我々は、大学に対する国旗国歌に関する要請を撤回するよう、文部科学省に求める。

2015年4月28日

学問の自由を考える会


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・国立18大学、文系は大幅改組…来年度入学定員
 文部科学省は(8月)28日、来年度の86国立大の入学定員予定を発表した。
 それによると、18校が文系の学部や学科、課程を改組し、うち15校は教員養成系学部の中で教員免許の取得を義務付けない「ゼロ免課程」定員計1112人分の募集を停止する。全体では、2004年度の国立大法人化以降、最も大幅な改組だという。

 宇都宮大、千葉大、福井大など「ゼロ免課程」の募集を停止する15校中7校は、理系と融合させるなどして新しい学部を開設し、定員を振り分ける改革を行う。
 また「ゼロ免課程」の募集停止校6校と東京大、山口大、高知大 の計9校は、教員養成系以外の人文社会科学系の学部や学科を改組する。
文科省は、国際的な大学間競争の激化などを背景に、今年6月、各大学に人文社会系学 部の廃止や他分野への転換を求める通知を出しており、組織再編はさらに進むとみられる。

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・安保法案:11日採決断念 衆院再可決視野 政府・与党
 政府・与党は1日、安全保障関連法案の参院審議で、当初目指していた11日の採決を断念する方針を固めた。仮に参院で議決できなくても衆院で再可 決できる憲法の「60日ルール」の適用を視野に、14日の週での成立を目指す。また、事実上の分裂状態にある維新の党との修正合意は困難だとして、政府案 のまま採決する方針だ。【高橋克哉】

 自民党の佐藤勉国対委員長は1日の記者会見で「60日ルールは使いたくないのが本音だが、どう対応するか参院と協議する」と語り、必要ならば衆院で再可決する考えを示唆した。 与党幹部は「採決は14日から18日までの間になる」と語り、連休前には成立させる考えだ。参院が16日までに採決できない場合を想定し、衆院側 は18日に法案を再可決する準備に入った。関連法案は7月16日に衆院を通過。60日ルールに基づけば、今月14日以降は衆院の出席議員の3分の2以上で 再可決し、成立させることが可能となる。

 関連法案を審議する参院平和安全法制特別委員会は1日、野党の反発で開催が見送られた。参院では100時間の審議を目指してきたが、1日までの審 議は約63時間。与野党が合意した安倍晋三首相出席の集中審議のほか、参考人質疑などを11日までに消化するのは不可能な状況だ。一方、関連法案の修正を めぐる与党と維新の協議は、維新の分裂騒動で実務者協議に入れず、「合意はもはや無理」(与党関係者)との判断に傾いた。ただ、元気、次世代、改革の3野 党との協議は、付帯決議などの形で柔軟に対応する考えだ。(毎日)
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 「付帯決議」など、何らの法的拘束力もない、ただの飾り文句にしか過ぎない。